ダークアクシズとの戦いの間でもたまには皆でどこかへ遊びに行こう。
そんなシュウトの提案でネオトピアの中心部から差ほど離れていない野原にガンダムフォースのメンバーは居た。
もし敵が来たとき、街から近いほうが現場に駆けつけることができるからこの辺りになったらしい。
一面に広がる芝生にはレジャーシートがひかれ、大量のおにぎりが置かれる。
「おぉ!そうなのか?!」
「でね……」
今、爆熱丸と楽しそうに会話している少女はお名前(女)。
この少女と翼の騎士ゼロが互いに惹かれ合っているということはS.D.Gでは知らない者はいなかった。
ゼロがセーラのようにお名前(女)を「姫」と呼ばないところを見れば、セーラとは違った意味で特別に見ているのがわかる。
ゼロは少し離れたところからほのぼのした光景を眺めていた。
表情は変わらないが心は落ち着かないし、嫉妬という感情が先ほどから渦を巻いている。
そして――ゼロが行動を起した瞬間だった。
アニメにでも出てきそうなポン!という音が辺りに響き渡る。
だが、一見変わった様子はないのだが……
「あ!」
「な!!」
お名前(女)は目を見開いたまま爆熱丸の頭、正確には兜をじっと見る。
爆熱丸本人も兜に起った異変には気が付いているようで瞳が大きくなる。
普通は兜に花が生える筈が無い。
紫色の花は間違いなくラクロアンローズだ。
こんなことが出来るのはただ1人。
「ゼロ!! 」
「ゼロ?!」
「おのれ……!ゼロ!!」
「まぁまぁ……ね?落ち着いて!!」
まだ唖然と爆熱丸の兜を見ているお名前(女)に代わってシュウトが怒りを抑えようとする。
「これが落ち着いていられるか!!」
天から雷でも落ちそうな勢いで爆熱丸は言い返す。
兜に花が生えているせいか、その恐さも半減してあまり怖くない。
「お名前(女)!ゼロの方、行ってあげてよ」
「え?あ、うん……」
自信なさげに答えたお名前(女)は小さく見えるゼロの後を追った。
「ゼローー!!」
「お名前(女)か」
お名前(女)はゼロの前に立ちふさがり、手を胸に当てる。
走ったせいで息が切れて上手く言葉が出ない。
「なんで、はぁぁ……その……何で爆熱丸にあんなことを?」
「……」
「?」
何も答えないゼロの顔をお名前(女) は覗き込む。
その顔はいつもの知っている顔ではなく、いつもの自信など溢れていない――苦しさが混じる表情。
「お名前(女)は私と居る時は退屈か?」
「そんなことないけれど、どうして?」
「なら、質問を変えよう。爆熱丸とは楽しく話が出来るが、私とは出来ないのか?」
「私、何かした?」
「私といる時のお名前(女)の表情は爆熱丸の時のように――明るくはない。一緒に居るのが嫌ならばそう言えばいい」
「そんなことないって!ただ、ゼロは皆に優しいから私もきっとその対象の1人なんだろうなって思っちゃうだけで……でもね!皆に優しくできることがゼロの良いところだと思うからいいの」
ゼロはその言葉に苦笑いしながらも、嬉く思いお名前(女)の髪をそっと手に取る。
髪は風でゼロの手からすり抜けた。
「それを言うならお名前(女)もだろう?私が愛しいと思うのは、貴女だけだ……」
優しく微笑んだゼロを見てお名前(女)もにこりと笑う。
お名前(女)と同じ好意でなくとも、ひとときの特別でも嬉しい。
(両思い――なんて程遠いかも)そんな風に思ったのは彼女だけだった。