黒く淡いバレンタイン

街は幸せそうなカップルで溢れ返っていた。
最近、授業を出ておらず、ボートで童実野町で出かけてばかりだった。
裏で鮫島校長がボートの使用許可を出してくれている。

店頭は、綺麗にラッピングされてるチョコレートが並べられていた。
デュエル・アカデミアに入るまでは周りの人ににチョコレートを買ったり。
海馬家で台所を貸してもらいチョコレートを作ったりしていたが寮生活で料理などしていない。
(オレ、明らかに料理の腕落ちてるだろうな……)
冷たい雪がふわりと空から舞い降りた。
そう、今は一人なのだ。

ぼんやりしていると思いっきり肩を掴まれて「ひっ!」と、間抜けな声を出す。
(海馬さんに見つかったら!! いや、遊戯さんと一緒ならまだ言い訳が……)
吐く白い息とは反対に、相手は黒い服に身を包んでいた。
今やTVで見たことのない人間はいないだろう。
「亮……」
「十代、なぜここに?」
亮は普段は日本にはおらず、アメリカで生活しているはずだ。
驚いた表情から、柔らかく笑いながら十代が言う。
「校長にボートの使用許可もらってるからサボって遊びき……!!」

きつく抱きしめられる身体が、現実だと認識させる。
「ッ亮、会いたかった……!」
「俺もだ、見かけてまさかと思ったが声をかけずにいられなかった」
現実だと解ると十代の瞳から大粒の涙が零れる。
それを見た亮がペロリと涙を舐めとると、顔が真っ赤に染まる。
「あ。チョコレートない」
恥ずかしいから話題を変えようとしたら、本音がポロリと出てしまう。
「なら、始めにこちらを貰うだけだ」
触れるだけのキス。
雪が舞ってきたのを見て、空を仰いだ。