画面映る、勝利だけを求める姿。
リスペクトすることなどない完璧なる勝利。
これが 貴方が求めたものだったの?
闇が深まる夜の灯台に十代は一人でいた。
「あんなの兄さんじゃない!」と叫んだ翔の言葉に、一瞬同意しそうになった自分が嫌になる。
どんな姿になっても亮は亮だと、そう十代は信じている。
パーフェクト……リスペクト……今の亮は信じていた信念を捨て、自分の心のまま、正直にデュエルしている“だけ”。
急に変わりすぎてしまっただけで彼は何も悪く無い……より高みを望む姿、あれが心から望んでいたもので彼の本当の姿なのだ。
ポケットから取り出したのは、折りたたんである紙で、丸藤亮のプライベートの番号とメールアドレス。
プロリーグで活躍し始めてから、デュエル・アカデミアにいる十代宛の手紙に入っていたものだ。
ヘルカイザーと名乗り始めてから連絡は途絶え、既に携帯電話の登録は既に消してしまった。
あの状態でなにを話せばいいのかも思いつかなかった。
「今日のデュエルすごかった」とでも言えばいいのか? 亮は決して「ありがとう」とも「そうか」とも言わないだろう。
手から紙を離すと風に舞い、ふわりと海へと落ちた。
じわりじわりと、海水が紙に滲みのを見てると、突然引き寄せられる――が驚きはない。
引き寄せた相手と密着する身体……不意に耳に息をかけられ、体が跳ねる。
「恋人の連絡先を捨てるとは、お前もやるようになったな」
顔は抱きしめられて見えないが、声色だけなら嬉しそうだ。
「亮……」
「どうした」
名前を呼んでみたが、何を言えばいいかわからなかった。
地面を見ても答えは出ない。
「デュエルが亮が求めているもの?」
「そうだ。相手を完膚なきまでに打ちのめし手に入れる完全なる勝利、それが求めるもの」
『それまでには十代も俺も、成長している』
卒業模範デュエルの夜の言葉が浮かぶ。
(確かにアンタは成長したよ……)
「そっか」
少し苦笑いしながら、月明かりが照らす水面に映る亮を見た。
「何も言わないのか?」
「何って……亮に変わりないし。何も変わらないって信じてる」
その言葉にすがりつく様に亮は十代を力を込めて抱きしめる。
そう、いつか俺にも変わる時がやってくる