近づいてくる足音に気づいて、急いで服の袖で頬と目を拭う。
「遅かったな!」
「あぁ、悪かったな……」
十代が座っていた隣に亮も腰を下ろす。
「今日のデュエル、最高だった」
「オレもだぜ! あんなにワクワクしたデュエル、初めてだった」
遊戯や海馬とデュエルしても、今の実力ではすぐに勝敗が決してしまう。
それがつまらないわけではない、定番すぎるのだ。
必死に思考を巡らせたが、切ない気持ちが心を支配する。
それがあまりに気持ち悪い。
(いつからこんなに涙腺、弱くなったのかな)
「……じゅ、だ……十代?」
「え?」
「どうした?」
「別に何でも……」
そっと、亮の指が目元に触れて零れ落ちそうになる雫を拭く。
「なら何故、泣く?」
瞳を閉じれば亮のことが浮かんでくる。
本気のデュエルしたり、まともに会話した数は数える程だ。
再び瞼を開けると、溜まっていた涙が頬を流れた。
「ごめん、カイザー。ただ、こんなにもカイザーの存在が大きいんだなって」
それを聞くと十代の手をぎゅっと握る。
「か、カイザー?」
声が上ずり、自分でも今の発音はないな、と思う。
「こうされるのは嫌か?」
十代は泣き顔を見られるのが嫌でそっぽ向きながら言う。
「いや、そんなことない……」
亮はそんな行為さえ可愛く思う。
「もうデュエル出来ないとか。会話するのも減るとかって思うと……」
包み込むように、心も身体も抱きしめる。
亮にはもう抑えきれなかった。
「十代、お前がどういう好きでも構わない。俺はずっと好きだった。きっと……あの時から」
無意識なのか意識してなのか、十代は甘えるように背中へ手を回して肩へ顔を埋めた。
「オレもカイザーのこと、好き……」
視線を逸らし続けた十代が亮の瞳を見つめる。
目はどれ位涙を流したのか解らない程に腫れていた。
そのままお互いの顔が近き、自然に唇が重なる。
「それまでには十代も俺も、成長している」
頭を撫でる手はとても温かかった。