夢は平凡に生きたいことだった。
広い世界を見たい、今回だけわがままを許して欲しい。
地面に積もるほどではないが、雪はただ静かに降っている。
「今年も一人かな」
今日は12月31日、一般家庭なら家族で過ごしているだろう。
だがこの家に休日というものはないようなものだ。
ましてや海馬コーポレーションの社長と副社長なら尚更だ。
「十代!!」
「うわ!」
そんな静寂を壊したのは紛れも無い海馬コーポレーション副社長であった。
「モクバ、なんでここに?!」
「ここ最近屋敷にも帰って来れなかったし、十代の顔も見てないからな! 兄さまも帰ってきてるぜィ!」
「そっか……おかえり」
「うん、ただいまっ」
腕を捕まれた後は覚えていない。
引きづられる形で、部屋を出てとにかく走る走る!
一室の扉を勢い良く開けたら、ネクタイを少し弛めて座っている海馬瀬人が居た。
「海馬さん、おかえりなさい」
「ああ」
十二月はクリスマス、一月はお年玉を持った子供が押しかける。
イベント続きもあって、海馬もモクバも疲れ切ってるのが解った。
「それより、何これ?」
十代が指差したのは明らかに海馬邸には不釣合いな物……いつの間にかセットされている和室、こたつ、蕎麦。
以前、この部屋にきた時にはこんなものはなかったはずだ。
「俺が家に電話して急遽、作らせたんだ!」
急遽にしては本格的だとは思わない、なんせ海馬家なのだから!
「ほら、十代もこたつ入ろうぜー! 蕎麦ものびるしな!」
「あぁ……」
状況についていけない十代だったが言葉のまま席に着くとモクバが「兄さま!兄さま!」と急かす。
蕎麦はいつもの食事より、ずっと美味しくて。
綺羅びやかな料理もいいが、こういう食事の方があっているといつも思う。
年越しで一番はしゃいでいたモクバが気になってみると、いつの間にか寝息をたてていた。
「十代、少しいいか?」
眠ってしまったモクバを寝室に連れていった海馬が帰ってきたのだ。
「なんですか?」
紙を出されて、十代はつい渋い表情をしてしまう。が、気にしない様子で、海馬は続けた。
「進路はどうするつもりなんだ?」
名前は記入されているのに、全ての希望が空白となったままのそれ。
「好きな選択をすれば良い。希望校はないのか??」
「話しながらすまない」と、海馬はノートパソコンで仕事をチェックしていく。
きっとモクバがたまには家で、と気を使ってくれたのかもしれない。
「あの海馬さん……俺、卒業したらデュエル・アカデミアへ行きたい」
海馬は目を見開いて、作業する手がピタリと止まった。