耽溺

間接的な性描写あり

支度が済むと宿の出入り口にパーティーメンバーが続々と集まってくる。
少し駆け足でフェイトが合流すると残りはアルベルだけだ。

無理矢理叩き起こせばその日は不機嫌だし、甘やかして起こさなければいつまで経っても起きてこない。
仕方ないのでほぼ毎日フェイトが何度も起こしに向かう。
それでも直前まで起きてこないので出発直前まで時間を掛けているのは全員知っている。

暫くしてアルベルが姿を見せると、フェイトが「遅い!」と不満そうに言うとアルベルは咄嗟にフェイトをギロリと睨んだ。
他のメンバーはいつものだと思ったのだが、ぼーっと見つめたまま何も言わない。
数秒のことだったが最後にアルベルらしくないため息をついて歩き出した。

フェイトが何があったと振り返り、マリアやネルも首を傾げて苦笑いをする。
他のメンバーも不思議に思ったらしいが何せあのアルベルだ。
色々考えてみたが誰も先ほどの行動は理解できなかった。

移動中も朝の出来事以外アルベルは目立った行動もせずその日の夕方になる。
昼間の間に街には到着していたし野宿は避けることができた。

そして、今日の部屋割りもあの日と一緒でフェイトとアルベルは息を呑んだ。

腰の刀を抜いて枕元に近い場所にそっと立てかける。
既にベッドに横たわるフェイトがこちらを見るものだからアルベルはあえて目をそらし続けた。

「アルベル。今朝、変だったよな?」
「俺がいつ変だっていうんだ阿呆」
「だって何も言わないなんて珍しくてさ」

(嗚呼)
確かにあの時ばかりはおかしかったかもしれない。
でなければ、朝の――しかも男の、フェイトとのあんなものを思い出したりしない。
偶然2人が相部屋になった一昨日、身体を重ねなければ……。

「お前のイク顔を思い出しただけだ」
「な!!お前、何言ってるんだよ!」

顔を真っ赤にしながら掛け布団を被ってもすぐ剥ぎ取られる。
フェイトは布団を取り返そうとするが、アルベルは新しい玩具を見つけたように嬉しそうにニンマリ微笑む。
アルベルが顔を近づけてわざと耳元で囁く。

「今日もヤってやろうか?フェイト」
「ちょっ!!……っん」
了承なしにキスをして、しつこいぐらいに舌を絡ませる。

最果てもなく続きそうなこの行為に怖くなって、思いっきり胸板を押し返す。
身勝手な相手は普段と変わらず――きっとそんな反省する気持ちはないだろう。
逆に隙あらばまた襲ってきそうだ!

「そもそも!お前は好きじゃない相手とキスとかそういうことして楽しいのか?!」

考えてみれば身体を重ねただけでアルベル自身が好きだとか愛してるだとは全く聞いていない。
性格と口悪し、顔と地位良し。
女性は放っておかないだろうしそういう相手は全く困らないだろう。
(この性格じゃなぁ……)
しみじみ考えていたのが馬鹿らしくなりフェイトは握り拳を作る。

こんなに意識してしまうのはこの性格の他にきっと恋愛を知らないからだ。
付き合ったこともないし本気の恋さえしたことがない……知識としてあるだけで実際は何も知らない。

「なら、言えば納得するのか?」
「そうじゃないけどさ!」
「フェイト、好きだ。愛してる。だから抱いた」
「…………」

細められた赤い瞳と真面目な声色、甘い台詞。
男同士なのにこんなにときめいている。
危険信号のように心臓バクバクうるさい。

順序が滅茶苦茶でもアルベルだから納得して許してしまいそうな――駄目だ!!

「だからヤらせろ」
「えっ?ええぇ~~!?」

台詞の想像以上の嬉しさにニヤけそうな顔を我慢しながら押し倒される。
先ほどのように押し返す勇気はない。
キスがどれだけ降ってきても、服を脱がされても抵抗できなかった。

こんなにも溺れている自分に気づいてしまったから。