愛妻料理

[su_icon icon="icon: exclamation" background="#9c1423" color="#FFEA65" size="20" shape_size="6" margin="5px 10px 5px 0px" target="self"][/su_icon]「04 typeA 2つの道でも思いは1つ」の後

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部屋にはペラリペラリとページを捲る音だけが聞こえる。
トールギスの執務室に居る2人は、黙々と本と睨み合っていた。
もちろん、トールギスはあの樹に関する物を読みあさっている。
一方、シュウトは文字が読めなくても、写真にかなり近い絵で、本を呼んでいた。
そして、突然立ち上がった、シュウトはトールギスに言う。
「ねぇ、トールギス!台所、貸して?」
「台所?何故、そんな所に用事がある?」
シュウトはその返答に溜め息を付く。
台所でやる事など、1つだろうに。
「料理!料理したいの!」
「わかった……」
ここで駄目だと言っても、返ってくる返事は「料理がしたい!」だろう。
仕方なく、トールギスは諦めた様だった。

台所へ案内され、手を洗い終わった直後に入って来たのは、トールギスの腹心の部下だった。
「よう、シュウト!料理、誰の為に作るんだ?」
当の本人に会った途端にこの質問か?と疑いたくなるヴァイエイトだが、あえて口には出さない。
「ヴァイエイト、メリクリウス!誰って……皆?
トールギスにヴァイエイトとメリクリウスでしょ……デスサイズ、それに、ポーンリーオー……」
「本当に、皆なんだなぁ……」
そう言いつつも、2人は自分の名前があったことに、喜びを感じていた。
「ですが……シュウト君。ポーンリーオーには無理だと思います……」
「どうして?」
「それは私達自身も、ポーンリーオーの数が確認しきれて居ないからです」
そういえば、とシュウトは頭を回転させる。
いつも廊下で会うのは同じ格好、同じ口調。
だが、意思や自我はまったく別だ。
城の中でも、毎回会うのが違うというのに、一体どれぐらい存在しているのだろうか?
「そういえば、そうかも……」
「なら、ポーンリーオー以外の方に作ったらどうでしょう?」
「うん、そうする!」
シュウトの顔からは、残念そうな思いが手に取るようにわかった。
「まぁ、あの真っ黒野郎には作らなくていいと思うけどな……」
メリクリウスはムッとしながら呟くが、後ろに気配を感じ、振り返る。
「メリクリウス、真っ黒野郎とは誰を指すのでしょうかね」
それでも表情を変えず、言い返す。
「……分かってると思ったんだけどな?」
その争いを横目に、ヴァイエイトはシュウトと話に耽っていた。

「なんだ?これは……」
「何って……だから、肉じゃがとご飯とお味噌汁」
長いテーブルが置かれた食堂には、珍しく5人が椅子に腰掛けていた。
白いテーブルクロスに床は赤い絨毯。
ジリジリと光る蝋燭。
「トールギス様が頂かないのなら、先に頂きます」
ヴァイエイトはフォークで、肉じゃがのじゃが芋を口に運ぶ。
その行為は他の3人を釘付けにした。
「さすが、シュウト君!料理も出来るとはバッチリですね」
「そうかな?ありがとう、ヴァイエイト!」
ヴァイエイトの顔は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ちっ!ヴァイエイトの奴!……」
メリクリウスも同じように、じゃが芋を口に運ぶ。
「――なかなかいける!!」
「本当に?!」
今回ばかりはシュウトの喜びの声も、メリクリウスには届いていなかった。
ラクロアは洋食が主で、和食は殆ど知られていない。
和食という物がこんなに美味しい物だということに、メリクリウスにとってはカルチャーショックだった。
ヴァイエイトがトールギスとデスイサイズを睨む。
まるで、さっさと食べろと促しているようだった。
その間にもヴァイエイトとメリクリウスの手は止まる事は無い。
「なら、頂きましょうか?我が主」
「そうだな……」
2人は同時に口の中へじゃが芋を入れる。
喉を通ると同時に、デスサイズは口を開く。
「ほぅ……これは、なかなか……」
「よかったー!」
「和食という物も、悪くないですね」
そう言って、再び、じゃが芋を口へと運んだ。
「……シュウト、これは何という料理だ?」
「え?肉じゃがだよ?」
「肉じゃが……」
トールギスが無意識のうちに、言葉を繰り返す。
「肉じゃが……またそのうち、作ってくれ」
そう言っていたトールギスの手は止まることなく、料理を口へと運んでいた。