エスコート

あっちも違う。
こっちも違う。
「……ここどこなんだろ……」

外に出たお騒がせ事件以来外には出ていないがその分、城内部をあちこち回ることが多くなった。
外見からは想像できない程に入り組んでいるので、何処へ繋がっているのか全く予想が出来ない。
またそれがスリリングだというえば、そうだ。
だが、今日に限ってこんなにことになるとは思っておらず、シュウトはがっくりと項垂れた。
溜め息をついても何も出てくるわけでもないが、さっきからこの廊下は人っ子1人通らない。
下手に動いてちゃっかり良い場所に出れば良いが、ますます迷ったら最悪だ。
「……シュウト君?」
「え?」
顔を上げると青い髪の見慣れた姿の人物。
「ヴァイエイト!!」
「こんな所でどうしたんです?ここは曰く付きの廊下ですから滅多に人は通りませんよ?」
曰く付きという部分が気になるが、ヴァイエイトが着てくれて助かったのは事実。
シュウトは恥かしながら、事の経緯を説明すると予想通りヴァイエイトに笑われた。
「ふふ、それで迷ってたんですね。わかりました、部屋までお送りします」
「あ……うん!ありがとう!」
シュウトがお礼を言うと同時にヴァイエイトは片膝を付いて後、そっと手を差し出しながら言う。
「お手をどうぞ、姫君」
「え?あ、はい……」
ノリとはいえど、彼の手を取ってしまったことを恥ずかしいと後悔しても、もう遅い。
「あ、でもヴァイエイト……手は――」
「手は繋がなくても大丈夫、じゃないでしょう?また迷ったら大変ですからね」
ヴァイエイトが言うことは尤もなことだ。
シュウトは恥ずかしいながらも、手を引かれて部屋まで送ってもらった。
「ヴァイエイト、ありがとう。助かったよ!」
「いえ、シュウト君が気にする事ではありませんよ」
「でも、ありがとう」
シュウトはにっこりと笑いながら再びお礼を言う。
ヴァイエイトは繋いでいた手の甲にそっとキスをした。
「おーい!トールギス様がお呼びだぞ――ヴァイエイ――トぉおぉおおおおお?!!」
その場に居合わせたのは相棒のメリクリウス。
2人はまだ手の甲にキスをしたままの体制でそれを見た、メリクリウスは必然的に烈火の如く怒り出す。
「ヴァイエイト!!どーいうことだよ!抜け駆け禁止とかって言ってたのはお、ま、えだろ!!」
いたって冷静なヴァイエイトはシュウトの手を離してから、メリクリウスに言う。
「そうでしたか?」
「~~!トールギス様に言いつけてやるからなーー!!トールギス様ーーー!!」
メリクリウスは自分の主の名前を呼びながら、今来た道を駆け足で帰っていく。
「メリクリウス……行っちゃった……」
この場の状況についていけてないシュウトが心配そうにメリクリウスの消えた廊下を見つめる。
「気にする必要はありませんよ。それでは、シュウト君、失礼します」
一礼してから、ヴァイエイトはシュウトと別れた。
が、もちろんメリクリウスが報告した事で、主の怒りを買ったのは当然のこと。
「殺されたいのか?」と脅された挙句に、最終的に
仕事の量が通常の15倍程増えただけで済んだのは幸いだろう。