「明日すぐに侵略しに行くわけではない。すぐに結論を出せとも言わん」
そう言ってくれて、嬉しかった。
心が軽くなったような気がしたから。
それでも時間は残されてないんだよね。
全ての謎は解けた。
彼がこの世界に連れてきた理由も、自分の気持ちも。
「その顔だと、聞いてきたんですね……」
ついさっき会い、別れたばかりのヴァイエイトとメリクリウスだ。
顔には少し痣とかすり傷に加え、メリクリウスに限ってはちょっとした切り傷がある。
「だ、大丈夫なの!?」
「ああ、こっちは平気!怪我すんのは慣れてるしな!」
「それに、あの人のことは心配要りませんよ」
ヴァイエイトが言う。
シュウトはあの人という言葉で、デスサイズのことだと分かってしまう。
メイリウスも思い出したように、手をぽんと叩きながら言った。
「あぁ、そうそう!デスサイズなら心配無用だぜ!
口に布、巻いて、ロープで簀巻きにした上に魔法をかけて、物置に突っ込んでおいたからな!」
何故か、その時の光景を容易に想像出来てしまうのが怖い。
「君がどんな決断をしようと、誰も文句はいいません」
さすが腹心の部下だけあって、トールギスのことは分かりきっているようだった。
「うん、ありがとう……」
でも、きっと。
でも、きっともう決まってる。
夜、全てが静まった頃にシュウトはトールギスの元を訪れていた。
「トールギス。やっぱり、僕……」
「……やはり、帰るのだな……」
振り返りながら言ったトールギスはこう決断すると分かっていたようだった。
「うん……」
トールギスはこの世界に来た時と同じようにシュウトの額に手を伸ばす。
魔法を唱えると、部屋は一瞬明るくなり、そして再び薄暗くなる。
部屋の光は月の輝きだけ。
それでも相手の顔ははっきり見えていた。
「トールギス……僕ね。僕……愛してるって言われてとっても嬉しかったんだ」
自然と瞳に涙が溜まる。
「その時、僕もトールギスのこと、好きなんだってわかった。でも僕はネオトピアを……」
頬を伝って、涙が床へ1滴2滴と落ちる。
何も言わずにトールギスはシュウトを抱きしめ、シュウトもトールギスの服を掴む。
そしてトールギスは右手で、涙が止めど無く流れるシュウト顔を自分の方に向かせ、そっと唇を重ねる。
「トールギス……また、こういう風に出来るかな……」
「もしかしたら、オレは死んでいるかもしれんぞ?」
それを聞いたシュウトだが、驚いたような表情もせずに答える。
「それはないよ。 君はとっても強いから……」
また2人は唇を重ねた。
シュウトの周りに魔方陣が浮き上がる。
トールギスはシュウトにグリフォンのものと思われる、金色の羽を握らせた。
「トールギス!」
囁いた名前は風に消される。
さっきまで、自分の身に起こっていたことが夢のような気がした。
でも、確かに唇に温もりがある。
涙はいつの間にか止まっていた。
辺りも見回すと、連れ去られた時と同じ場所。
シュウトは自分の気持ちを気づかせる、
ヒントをくれた母親達が待つ、自分の家へと走り出す。
トールギスがくれた金色の羽を大事そうに持って。
心はいつでも繋がっていると信じているから。