02 真の姿・仮の姿

ラクロアのことをトールギスと話をしてから数日経つ。
シュウトはこの生活に慣れつつある。
「……慣れてもこまるよね……」
そうだ、慣れてはいけないのだ。
自分はネオトピアに戻り、ダークアクシズを倒すという目的があるのだから。
何か情報をつかみ、帰れる手立てが無い以上、こうしているしかない。
急にネオトピアにいる、あの3人の声が心を過ぎる。
本当にどうしているのだろうか?
一瞬、もっと深くまで考えようとしたが、シュウトは別の話題へと切り替える。
数日経つが、この城から一歩も外へは出ていない。
城内でやることも、限られているし、それ以前に暇だ。
決まりだ。
シュウトはそっと部屋のドアから廊下へと出る。
地図もなく、何処へつながっているか等わかるはずもない。
以前、部屋から出て右に行くと階段があったのを覚えている。
なら、と思い、シュウトは部屋の扉の前から右へと歩き始める。
「あ!!」
階段と思しきものを見つけ、駆け足になる。
が、丁度、階段へと降りる曲がり角で誰かとばったり出会い頭になる。
「へ……?」
シュウトはついつい間抜けな声を出してしまう。
自分以外の人間が目の前にいるではないか。
金髪で紅い瞳が特徴的な人。
ラクロアの人間は石化しており、まさか生き残った人がいるとは・・・・。
「シュウトか……何故、ここにいる?」
あれ?
何故、自分の名前を知っている?

それに聞き覚えのあるこの声。
「え……トール、ギ、ス……?」
「オレがどうかしたのか?」
「だっ!……だって!!」
声と言葉遣い。
やっぱりトールギスだとしかいいようが無い。
「だって……トールギスは騎士ガンダムで……」
「――……そうか、こっちを見るのは初めてだったな」
一瞬、顔を曇らせたトールギスだが、驚いている理由がわかったのか、普通の表情に戻る。
「トールギスって人間だったの?!」
「いや、違う。この方が便利だから、魔法でこういう形をとっているにすぎん……」
「へぇ~……それって誰でも出来るの?」
「魔法を取得した、騎士ガンダムならばな。
シュウト、お前に使った魔法と同じ系統の魔法だ。秘術だから、知っているものは少ないだろうがな」
シュウトは珍しそうにまじまじとトールギスを見る。
そういえば、声や言葉遣いだけではなく、なんとなくだが雰囲気が同じだと気がつく。
トールギスを人に例えるとこんな感じなのかと、ついつい納得してしまう。
「トールギス様ー!」
階段の下から彼を呼ぶ声が聞こえる。
バタバタと忙しく、駆け上がってくる2つの足音。
「トールギス様、こんなところにいたんですか……」
丁度、170センチ程の背丈の男性が2人。
シュウトは、今度は驚かなかった。
もうトールギスで十分すぎる程、驚いたから。
魔法が使え、その魔法さえ知っていれば誰でもつかる。
ならその2人もそうなっても当然ではないか。
さすがはミラクルな魔法の国・ラクロア
「あ、トールギス様!シュウト君とお話中だったのかー……」
自分の名前を知っている。
トールギスから聞いたのか、それとも以前に一度、会っているのか。
この場合は後者だろう。
軽い口調で、赤い髪の毛をしたメリクリウスが言う。
「用件は、なんだ?」
「い、いえいえ~!先にシュウト君との方をどうぞ~!」
それを聞いて何事も無かったの用に、トールギスはシュウトと話を続ける。
「それより、何故、こんなところにいる?」
「え……あ~……お城の外、行って見たくて……」
「それは無理ですね、シュウト君」
突然、口を開いた青髪の男性。
「ヴァイエイトの言うとおり、それは無理だなー」
「なんで?」
「簡単なことだ。ラクロアにはダークネスマナが大量に存在している。
そのせいで、動物が凶暴化しているのだ……生身の、しかも人間のお前が外に出たらどうなるか想像はつくだろう?」
「なら、今度、俺が連れて行ってやるよー!」
その発言にトールギスは何も言わずにギロリと自分の部下をにらみつけた。

 

【生身の、しかも人間のお前が外に出たらどうなるか想像はつくだろう?】
警告された後は、言いつけを守り城内部にいるシュウト。
それでも退屈であることには変わりない。
外を見ていると、翼の騎士の姿が過ぎる。
それに加えて痛々しい思いになる。
きっと、自分の世界とこの世界の文字は違うので本も読めないだろう。
「はぁ……」
溜め息をついても何も変わることはなく。
部屋の窓から上半身のみ、垂れ下がって見ても、変わることない。
「あれ?」
垂れ下がっていた身体を勢いよく起こし、窓の下を見る。
城の壁の近くに生えているもの。
他の花は枯れているのに、数本だが、花やつぼみがついている。
それは、今までに何度も自分がよく見ていた花とあまりに似すぎていた。
ラクロアンローズ。
それでもその花は紫ではなく、赤色だった。
今の現状で、花が育った姿など、ありえるだろうか?
それだけ珍しい。
もちろんのこと、シュウトはもっと近くで見たいという気持ちが出てくる。
が、先日の警告のこともあり、すぐには行動へと移さなかった。
それでも見たい。
幸い、階段で1階へと降り、窓から外に出ても大丈夫なようだ。
その甘さが命取りだったのだ。
1階へと降りた後、窓から禁じられていずはずの外へと出る。
ラクロアンローズと思われる花はそれはそれは美しいものだった。
これが国中に咲いているのかと思うと、ゼロが自慢したくなるのもわかる気がした。
色違いの花があるかどうかは、わからない。
けれども、やはり「綺麗」という感情に変化はない。
こういう時には、普通1本ぐらい持ち帰るのだろうが、
こんな現状で咲いた花だからこそ、枝から折るという気持ちが引ける。
「うーん、どうしようかなぁ……」
考えている間に何故か背後に気配がするので、シュウトは何も考えずに振り返る。
「ごめん!勝手に出ちゃ……――うわぁ……」
両手を合わせて謝るポーズから、シュウトの表情は一気に歪む。
シュウトの表情は一気に歪む。
真後ろにいたのは、外に出てはならないといっていた原因がいた。
酷く凶暴そうな顔に牙と爪。
確かにこんなのに襲われたら一溜まりもないだろう。
だが、今自分はその襲われるという立場にいるのだ。
今更になって、シュウトは外に出たことを後悔し始めるのだった。
そして現在へ至る。
シュウトはチラリと外へと出た窓を見るが、距離は3メートルほど。
走って入ろうとした瞬間にきっと、と思うが想像したくはない。
人々が石化し、食のためにとっていた獲物の動物もきっと、石化したのだろう。
だから、このように騎士ガンダム・人間問わず、襲うようになった。
この状況から見て、結果を言えば、助からないだろう。
ネオトピアとは違い、発明品があるわけでもなく。
いざとなったら助けてくれれた彼らが居るわけでもない。
怖い。
そんな感情が心を染めた。

 

絶対絶命だとしか言いようがない。
自分にはまだやりたいこと。
やらなければならないことが残っているのに。
こういう時に限って、いい名案が思い浮かばない。
あの3人の名前を呼べば良いのに。
『なのに何故、この名前がでたのかな?』

「……トールギス!!」
叫んだ途端にシュウトはぎゅっと目を瞑り、その後に凶暴化した動物が地面を蹴る音が聞こえる。
来る!
そう、思った存在は何秒経っても来ない。
恐ろしい気持ちになりつつも、うっすりと瞳を開ける。
視覚の先に入ったのは、血を流して地面に倒れているあの凶暴化した動物。
冷静に考えてみれば、痛いと思う箇所はない。
うっすりと開けていた瞳をちゃんとパッチリ開ける。
凶暴化した動物に意識が行き過ぎていたせいか気がつかなかった。
倒れている動物の隣にいたのは紛れもなく名前を呼んだ彼。
トールギスだった。
今は人間の姿をしておらず、手に握られた剣には動物の血がべっとりと付いている。
剣を一回振り払うと、付いていた血が地面へと飛び散る。
それから、剣を地面に刺す。
「トールギス?」
「怪我は……怪我はないのか?」
彼は何事も無かった様にシュウトに問う。
「あ……うん、大丈夫……」
「そうか……」
その言葉を放った後に、シュウトはトールギスの方へと引き寄せられ抱きしめられる。
「もし、オレが通りかからなければどうなっていたか・……」
「あ、あの、ありがとう……それに、ごめんなさい……」
トールギスは何も答えない。
「無事で良かった」
本当に小さな声だったが、シュウトにははっきりと聞こえていた。
その一言だけで、シュウトの心はドキリとする。

それは 甘い囁き。