君が居ない部屋。
君が居ない城。
君が居ないラクロア。
なら君は何処へ行った?
トールギスがヴァイエイトとメリクリウスを連れ、用事に出かけてから4日経つ。
何回か用事があったが一日で帰ってきたし、それに今回も特に時間が掛かるとも何も言ってはいなかった。
こういう事を聞くのは、あまり近づきたくないがあの人物に限る。
“デスサイズ”
彼はトールギスが留守にしている間、任されているようなので一昨日も昨日も会った。
覚悟を決め、デスサイズの元へ向かう為に廊下へ出ると、ちょうどポーンリーオーの塊が目に入る。
いつも以上に深刻そうな雰囲気な彼らはドアの音がしても、シュウトには気が付いていない。
「トールギス様がネオトピアに言ってから4日経つポーン……」
「精霊の卵を取りに行ったらしいけど、心配ポーン……」
「噂だと、ガンダムフォースに敗れたらしいポーン……」
言葉が出てこなかった。
敗れた、だって?
そんな言葉しか出ない。
それ以前に用事の場所が、まさかネオトピアだったとは……トールギスは精霊の卵を狙っていた。
いずれネオトピアへ行っただろうし、そして奪おうとすれば、必ずガンダムフォースとの戦闘は避けられない。
彼は気を使って、自分に行き先を告げなかったのだろう。
彼がもし精霊の卵を奪ってきたら、ネオトピアにいる仲間は怪我を負う。
逆に、トールギスが最悪のケースに当てはまったとしても――自分は喜んでも、悲しいでもいけないのだ。
道を、誤ってしまった。
「そんな、そんなはず!」
シュウトは廊下を走りながら、大声で叫ぶ。
「デスサイズ!居るんでしょ!デスサイズってば!!」
そこで息が切れるので、声も止む。
声を聞きつけたのか、目の前には魔方陣が浮き上がり、そこからのデスサイズが現れた。
「姫、お呼びですか?」
「……トールギスがやられたって……」
本当か聞きたかった。
でも事実だった時のことを思うと怖くて声が出ない。
「おや、もう耳にいれたのですか?残念ながら、トールギス様はあの忌々しいガンダムに次元の裂け目に閉じこめられました」
「……その場に、居たの?」
「ええ」
その一言がやけに重く圧し掛かる。
「何で、助けなかったの?仲間じゃないの?」
その質問に対して何も答えないのは、仲間では無いという肯定の印。
それが解った瞬間、シュウトの足はもう動いていて、ここまで来た道を戻っていた。
部屋に入ると、自分の服を捲り、トールギスが刻んだ場所を見る。
【 これが消える時はオレがこの世から消えた瞬間ときだ 】
彼の声が頭に響く。
羽を形取った山吹色の印はハッキリと胸に刻まれている。
瞳から頬へ、涙が伝う。
何て神様は酷なことをするのだろうか?
デスサイズから話を聞いてから数日しか経っていないのに、時間の流れがゆっくりに感じる。
帰って来ると思い続けても、彼は帰って来ていない。
ネオトピアで剣を交えたのだろうが、ガンダムフォースよりトールギスのことが先に頭に浮かんできた。
それは虫の良すぎる話だろうが、好きな人に変わりないのだ。
不意にノックがしたので、どうぞ、と声をかけるが入ってくる気配が無い。
次の瞬間には視界が完全に何かに遮られる。
「うわっ!!」
驚いたシュウトは思いがけず、手を目の辺りに近づけようとするが、その手さえ誰かに掴まれた。
瞳を開けても黒い、黒い空間のみが見え、手を掴まれいるせいか、不安が大きく広がる。
「……だ、れ?」
「解りませんか?」
「デスサイズ?」
名前を呼ばれ、デスサイズは嬉しそうに答える。
「はい、お解かりのようですね……」
「あのさ……何で、こんなこと――」
少し言葉に詰まりながらもシュウトは思い切って聞いてみた。
「この城の主は死にました。これからは私が仕切らせて頂きます」
「トールギスは死んでないよ!」
「そんな根拠、どこにも無いではありませんか。話を戻します。それに当たってシュウトには部屋を移動していただこうと思いましてね」
そういわれた時には遅かった。
浮遊感に襲われ、しかしすぐに地面へと足が着く。
あの発言は希望でも、頼みでも何でも無い。
“丁寧に言った強制の言葉”
デスサイズが目隠しを取り、シュウトの視界にはやはり見知らぬ部屋。
見渡せば、あるのはベットと部屋についているバスルーム……窓は牢屋のように鉄で頑丈に出来ていそうなもの。
ドアも同じく鉄で出来ており、全体的に冷たい雰囲気の部屋だった。
「食事はちゃんと、持ってきます。……そんなに怖い顔をしないでください」
「どうして、トールギスを裏切ったの?」
「簡単です。邪魔になったから、ですよ」
そこまではっきリ言われると、何も言い返せない。
シュウトは彼の無事を祈るのと同時に、俯くことしか出来なかった。