01 爪先から焦げていく病

フェルテンの私室にて // フェルテン(Prof) と イオン(Prof)

散らかりっぱなしの文献の上に、読み終わったばかりの本を、本の上に置く。
(次は何を読もうか……)
考えながらどこに何があるか解らない机の中から手探りで本を掴む。
本のタイトルだって、物が折り重なっているから見えやしない。
掃除なんて何ヶ月もしていないから部屋全体が埃っぽい。
適当に引っこ抜くと上に置いてあったものが音を立てて崩れていく。
数冊か床に落ちたがいつものことだ……気にしない。

引き当てた本はプリーストが愛用する聖書だった。
何でこんなものがあるのかさっぱり思い出せない。
いつ購入した? 誰の趣味? 何のために?
だが他に思い出したこともある。
そう――数日前、同じプロフェッサーの友人・イオンが訪ねてきた時のことだ。

 

気だるそうに読みふけっていた文献から目線を相手に移す。
部屋のドアが開きっぱなしで、その部分にだけ日光が射し込む。
薄暗い部屋にいたフェルテンは眩しそうに眼を細めた。

イオンも同じように薄暗い部屋で過ごす――同種のようなものだ。
大抵出歩くのは夕方以降で昼間に出歩いてたのを見たのはいつの事だったか……。
フェルテンと違うところは、まだ部屋を掃除するという点だ。
この部屋と違って定期的に掃除しているらしく、ほどよく綺麗でほどほどに汚い部屋を思い出す。
お互い研究に時間を捧げ、プロフェッサーに転職してから暫くは狩りもしていたが、ここ数年は部屋に篭もりっきりだ。

「最近狩りに出かけるようになってさ」
「は?」
「いいよ、プリーストってのは」
「…………」
「今度機会があれば紹介するよ。元気そうで良かった、じゃーな!」

顔を見て早々帰る姿に取り付く島もなかった。

 

なにが「いいよプリーストってのは……だよ」と呟く。
イオンの幸せそうな顔を思い出し、腹が立つ。
恋人ができて羨ましいわけでもないし、同種に裏切られたなどでもない。
単純に幸せな姿に腹が立つ。

奴を劇的に変化させた人間が気になった。
丁寧に指した“プリースト”という職業に。