前編

冬休みの終業式。この日が終われば冬休みだ。
今まで1人で過ごしていた綱吉だったが今年はそうではない。
既に山本と獄寺とは初詣に行くことを約束した。
こんなに楽しみな冬休みは初めてかもしれない。

夏休みは皆と花火を見に行く予定だった。
途中で風紀委員長・雲雀恭弥が乱入し、無理やり綱吉を連れ出されて2人で花火を見た。
ランボや獄寺たちがどうしたのか心配ではあったが、雲雀と見られたことの方が嬉しかった。
その頃からだろうか?綱吉と雲雀の距離が縮まったのは。

最初は応接室に呼ばれて一緒に紅茶を飲んだり、たまに屋上で授業をサボったり。
中学生という身分で何故かバイクを所持している雲雀に様々な場所に連れて行ってもらった。
そんな2人をみて、いずれ交際に至ることは周囲はわかっていたのかもしれない。

 

終業式が始まる朝、プツッという雑音が入ってから夏以降ありがちな放送が流れる。
「2-A、沢田綱吉……3分以内応接室来て」

シーン

それだけで、放送は静まった。
「~~~~~!!!! ヒバリの野郎、10代目を何だと思ってるんだぁああ!」
拳を握りながら、友達の獄寺は放送が流れたスピーカーにガンを飛ばして見る。
「ははは、獄寺、そんなに怒るなって……ヒバリはツナがお気に入りなんだよ」
にこやかな笑顔で獄寺を宥める山本。
全くこんな時になんだろう、と思いつつツナは席を立った。
「しかたないから、行って来るね……行かないといろいろ面倒なことになりそうだし……」
以前にもこんな放送があった時に、サボったら雲雀が直々に教室に登場した。
トンファーを振り回して教室だけではなく廊下にまで被害んだのを知ったのは次の日だ。
その後、何も言わずツナを連行していったのを覚えている。
でも意外に雲雀は優しい。
3分以内・5分以内と言いつつ、少し遅刻したって頭を撫でて来たことを歓迎してくれる。
コンコン、というノックの後に「どうぞ」という雲雀の声が聞こえたのを
確認してから少しビクビクしながら、ツナは応接室に入った。
部屋の中には、いつも出してもらっている紅茶の慣れてしまった匂いが漂う。
雲雀の方を見ると、カップの中にある紅茶を見つめていた。
その雰囲気はあまりにも神秘的で。
いつもの強気な雲雀恭弥という人物は何処に行ったのだろうか?
そんな疑問がツナの中でぼんやり浮かんだ。
「綱吉」
「……え?え、はい?」
その姿を見て、ぼんやりしていたのか突然名前を呼ばれても反応出来なかった。
「僕達、結婚するから」
雲雀の発言を聞いて、ツナは「おめでとうございます」とは言えなかった。
「えっと……ヒバリさん、結婚するんですか?」
「うん、綱吉とね」

「えええええええええええええええええええ」

ツナは頭を抱えて、応接室のドアに倒れこんだ。

***

”僕達、結婚するから”

「ひひひ、ヒバリさん……本気で言ってるんです?!」
ツナは身を乗り出す、顔は真っ青に青ざめていた。
「本気もないと思うけど?」
「いや……日本の法律では、結婚は18歳じゃ……」
突っ込む所はそこじゃないだろう、ツナは自分に言いたい。
とにかく、この場を何とかやり過ごして考え直して!
それしかなかった。
「だから?並盛では僕が秩序だって言ったよね?反論する奴は、噛み殺せばいいし」

(勝手にドンドン話しが進んで行ってる~~~~~~……)

頭に頭痛が走って、このまま倒れて病院にでも担ぎ込まれてしまいたい。
ハッとツナの頭に浮かんだのは、「もし獄寺くん(他誰でもいい)が反論したら」だ。
10代目(ツナ)になにしてるんだ=反論したとみなされる=噛み殺される

「ヒバリさん…………本当に、結婚するんですか……?」
「綱吉、君は嫌なの?」
紅茶をそっとテーブルの上に置いて、雲雀がツナの左手を掴む。

「結婚、してくれるよね?」

そう優しく囁かれながら、左手の薬指に指輪がはめられる。
「え……これ、……!」
きっと、自分の顔は耳まで真っ赤になっているだろう。
心臓はバクバクいって、優しく握られた少し震える。
「短い間だけれど、婚約指輪ね?結婚式の日にはちゃんと別の指輪を用意するよ」
「…………はい……」
嫌だなんて言えなかった、言いたくなかった。

「それより、結婚式とやらはいつやるんですか?」
「1月8日の午後2時7分」
「………………始業式じゃん!!!!!!」

***

終業式が終わって、クラスの皆はそれぞれ自分の家へと帰った。
それは獄寺や山本も例外ではない。
「10代目、何かあったらすぐに駆けつけます!!!」
「ツナ、また来年な~!」
そんな言葉を交わして、ツナも家へと帰った。
冬休みは思った以上に短い。
これも全て何年か前に出来た休日を弄ったせいだ。
冬休みの宿題として出された勉強をしながら、
その傍らでリボーンにマフィアとしての知識を植えつけられる。
フランス語を勉強した所で「発音が全くなってない」と指摘や、中々上手くいかない。
部屋では、あの子供2人がギャアギャア騒いで集中もクソもない。
「僕達、結婚するから」
雲雀が終業式の日に言われた告白も頭から離れていた。
あっという間に大晦日になっていた。

「はー…………もうちょっとで来年か……」
「ツナ、そんなことをぼやいてるからダメツナなんだ」
「もう、うっさいな!!!」
そう言いながら、ベットへ横たわる。

(今年は何かいろいろありすぎたな)

ぼんやり天井を見てると、指にはまっているボンゴレリング争奪戦があったり。
ランボの10年バズーカのせいで10年後(正確には9年と10ヶ月後)に飛ばされたり。
いろんなことがあった、そして大事な仲間が傷ついた。
カチ、カチ、カチ……
時計の針は11時46分。
少し気が緩んだせいか、視界がぼんやりする。
(このまま、寝ちゃおう)
そう思った時、後ろにある窓がガラッと音を立てていきなり開く。
「ひ?!」
飛び上がったツナは窓の方を見ると、いつも黒い学ランがトレードマークの大好きな人。

「ひ、ヒバリさん!」

一方、雲雀の方は呆れた顔でツナを見ていた。
「何驚いてるの?」
「だって、普通は窓から入って来ませんよ!」
発言してから気がづいた。
この人は普通じゃなかった、“僕が並盛の秩序”のお方。
「それより、早く着替えて」
「え?」
「いいから、寒くない格好に着替えて」
雲雀は顔色を変えずにサラッとツナにとっては恥ずかしいことを言ってのける。
「あ、はい……えっとここで?」
一緒に暮らしてる家族じゃない、人前で着替えるのは相変わらず恥ずかしい。
頬は少し赤く染まって、その想いは自然に声に出ていた。
「いつも、見てるからいいじゃない」
「うっ……わかりました…………」
確かに、出会ってから少し経ったら身体の関係も出来た。
その行為をする度にツナは1日中泣きたい程に、恥ずかしいと思う。
「着替えました、どこか行くんですか?」
「まぁね」
ここで今まであった思考をフル回転させてツナは考える。
(また窓から出てくんじゃないだろうか……というか、靴のまま部屋に上がるって)
「あ、靴取って来ます」
ツナは1回、母親や皆が騒いでいる1階へと下りていく。
茶の間のテレビでいつも通り、皆でワイワイとお菓子を食べながら騒いでいた。
部屋に戻ると「少し急ぐよ」と言われたのと同時に、そっと優しく
抱き上げたと思ったらやはり来たのと同じように窓から外へと飛び出した。