[su_icon icon="icon: info" background="#626e92" color="#f1f1f1" size="20" shape_size="4" margin="5px 10px 5px 0px" target="self"][/su_icon]「そのままじゃいられない!」続き
散らかりっぱなしの部屋を半日かけて片付けた。
これでまた1年持つだろう。
2018年のまま放置されているカレンダーは外してゴミ袋に詰める。
テレビをつけるとおせち料理の予約をしていて、チャンネルを回しても面白そうな話題はない。
画面の隅にある時刻を見るとまだ午後2時を回ったところだった。
ヘッドマウントディスプレイをはめてThe Worldにログインするとチャット欄が埋まっていく。
オープンチャットで井戸端会議をしているらしい。
「あー最悪!勉強進まね~w」
「俺なんて先生から受験諦めた方がいいって言われた^w^」
「教師からそこまで言われるって余程だぞ!w」
「俺から一言!さっさとゲーム止めて勉強しろよ^^;」
「じゃあ一回だけダンジョンいこうぜ。そしたら勉強するww」
「ういー、準備するわw」
少しの間、やりとりを見ていて当たり前のことに気付いた。
もう、12月だということに――。
夕方、欅がネットスラムを散策しているとショートメール受信のシステム音が鳴った。
差出人はハセヲからで、内容はいつも通りだ。
先日貰った武器のお礼をしたいと告げたら、ハセヲは自分の武器を出す手伝いをして欲しいと言われた。
情報収集ではなく、ただ好きな人と冒険する日々が嫌ではない。むしろ好きだ。
「ハセヲさん、お待たせしました」
「お!きたな。昨日と同じワードでいくぜ」
殆どこのワードでダンジョンに篭っているのか履歴から見つかったようで、すぐにローディング画面が表示された。
ダンジョンから出てタウンに戻ってくると、お決まりのトレード申請の文字が出る。
アイテムを受け取っている間、欅はログインした時のチャットを思い出していた。
時間というものは無限ではない。
悲しいかな、そのことを娯楽のゲームが教えてくれている。
ハセヲがいつかこのゲームにログインしなくなる時がくるかと思うと、考えたくない。
でもそれは今まで何度も経験してきたことだ。
「ハセヲさんは勉強しないんですか?」
「は?急に何だよ……」
「今日ログインした時に受験の話をしている人がいたので」
「あーw」
ハセヲはそれ以上は語らなかった。
「もし良い結果が出たら、僕がご褒美あげましょうか?」
「ご褒美なんて歳じゃねーから、いらねーwとりあえずオレ、飯食ってくるから落ちるわ」
「いってらっしゃい♪」
翌日、ハセヲはThe Worldにログインしてこなかった。