「僕に命令するなよ!!」
「おやおや、そんな事言って……お仕置きが必要ですかねェ?」
「――うるさいッ!もう、こんな所に居られるか!!」
3人は一定時間で薬を投与しないと精神異常――禁断症状が出る。
オルガとシャニは命令だけ聞いていれば殆どの場合そんなことはされないと気づいた。
だが、クロトは(いろんな意味で)子供だから、同じことを何度も繰り返す。
きっと、このメンバーの中でも一番罰をうけているのではないだろうか。
MS訓練中、クロトが奴に突っかかるのはいつものことだ。
研究室で一定時間放置されたのち、再び投与される。
その日だけは違った、クロトが施設から逃げたのだった。
「――という訳なのでキミ達にはクロトを探しに行って貰います。準備が出来次第、出発してください」
「僕は出てく。んじゃ。」なんて書かれたお決まりのメモが、部屋の机においてあった。
走り書きでミミズが張ったような文字…誰でも読めるかといったら、きっと読めない。
訓練を投げ出したっきり、クロトの姿は誰も見ていない。
施設にいるかすらわからないままだが、クロトの捜索に出されることになった。
2人が探せる時間が合計で3時間ほど。
薬が1本だけ支給されたからだ。
クロトは1本も所持していないので、薬が切れるのも時間の問題だった。
パイロットスーツを着ていると廊下が騒がしいことに気づいたオルガは、扉からほんの少しだけ顔を出した。
「待て!!」
「待てって言われて、待つバカがいるか!ヴァーカ!」
追いかけているのは研究室で薬を調合と支給をを担当している医者だった。
クロトが走っていった方向はMSデッキ。
半分しか着れてないスーツで走るが、デッキにつく頃には風で音を立てて靡いた。
『レイダー、停止しろ!』
アラートがうるさいほど鳴り響いて、耳がキンキンする。
慌てている中、レイダーはMA形態になって飛び去ってしまう!
アラートが静かになった頃、パイロットスーツをしっかりと着たシャニが歩いてきた。
手元の端末にアズラエルが映ると『東の方に飛んでいったみたいです。早く探しにいってください』と言われた。
オルガは端末にすごい剣幕で怒鳴った。
「おい、俺はどうすんだよ!カラミティは飛べねーんだぞ!?」
『ならシャニと一緒にフォビドゥンに乗ればいいじゃないですか?』
「テメ…!!」
『ハハハハハ……!冗談ですよ。幸い東は海が広がってます。カラミティは水上歩行が可能ですから』
端末を整備士に投げつけてカラミティを発進させると、フォビドゥンも飛び立つのが見えた。
1時間半ほど、空と陸から飛んで探し回ったら、北東の無人島から熱源反応を感知してシャニとオルガは降りていた。
日は沈み、空は月が浮かび星が輝いていた。
熱源反応した事はレイダーは起動していると考えて間違えないが、近づいても動く気配はない。
「おい!クロト、聞こえてんだろ?!」
この三機の回線は常に開いた状態にあり、声は聞こえているはずだが、レイダーのコックピットを操作すると造作もなく空いた。
コックピットが開くと同時に、滑るように地面へ落ちた。
刃には赤い血…。
中に蹲っているクロトは揺すっても微動だにせず、これなら反応がなくて当たり前だ。
「シャニ、降ろすの手伝え」
「何で?」
「急げって言ってるだろ!」
しぶしぶ手伝い始めるシャニは、クロトの姿を見て、「オルガがやったの?」などと聞いてくるものだから…。
ゴン!!思いっきりコックピットに頭をぶつけてしまった。
「あ?んなワケねーだろーが!」と反論したが、問うたシャニはもう聞いていなかった。
下まで降ろすと止血しなければならず、水と布が欲しい。
仕方なくオルガは自分の服を破き、傷口に巻き付けた。
「シャニ」
「今度は、何?」
「お前の方にクロト、乗せろよ」
「…手ェ、出すかもよ?」
「俺はカラミティとレイダーを持って帰るからだ!それにフォビドゥンなら単独飛行も可能だろ?クロトの手当てが先だろーが!」
そうオルガが言った時――「やだ!帰りたくな、い…」と足下から声がした。
「まだそんな事言ってんのか?!薬の事もあるだろ!わかってんのか!」
「だって、や、だ」
「クロトはどうして逃げたの?」
「僕達だけどうして……こんな苦しの……ヤダ」
「俺達じゃ駄目なの?」
「シャ二?」
「俺が一緒に居るんじゃ駄目なの?」
“俺達”を“俺”と言われれ、少しイラッとしたのでオルガもしゃがむ。
「そうだぜ。心配かけさせやがって……」
「ずっと、一緒に、いて、くれる?」
「うん、ずっと一緒」
「ずっと俺が居てやるよ」
「うん。ありが、と」
クロトの瞳から涙が流れ、それをシャニが指で拭った。