本当に現実って厳しいと思う。
会いたくても会えない。
一緒にいたくてもいられない。
この気持ちが収まらない。
「ありがとうございました!!」
剣道部の練習が終わる。
見上げると天井近くの窓から晴れている空が見え、夕方近いのに太陽が輝いている。
季節は夏。少し前まで春でその前は生き別れの兄弟と再会して。
黒の翼と白の翼の戦いが終わってから恋人とは離れ離れだ。
彼はウィンフィールドの国王だから覚悟していたが実際に離れてみるとありえないほど寂しい。
1日が長くて、でも夕食後はあっという間だ。
それなら会いに行けばいいと思うのだが、ウィンフィールドに行くためには双子・櫂の血が必要になる。
自分の血だけではワープが小さすぎて入れず、双子だから2人で1人前なのだ。
会いに行くたび2人で指を切ってワープを作っていたら身がもたない。
それでも行きたくて毎日毎日ワープが大きくなる事を願って指を切っても結局変わらなかった。
だから左手の指先は傷だらけだ。
「はぁ……」
翔は制服に着替えて更衣室を後にして寮へ戻る。
親友の直人も、翔の不良には何かあると感じているようで毎回励ましてくれる。
まさか恋愛ごとだとは予想もしていないだろうが。
先ほどからため息しか出ない。
涙が出そうだが誰かが見ているんじゃないかとぐっと堪える。
と――次の瞬間
「翔、前!!」
翔がハッとして顔を上げると、大木。
道が斜めに曲がって寮が見える。
考え事をしていたから気づかなかった、もう少しで顔面と衝突していた。
それを教えてくれたのは1番聞きたかった声。
「来栖!!」
「翔、あんまり心配かけさせんなよな。あともう少しでぶつかってたろーが」
「ああ……ごめん」
来栖が会いに来てくれたことが嬉しかった。
数週間ぶりに聞いた声に安心した後の感情の激変については、来栖も参ったらしい。
指で俺の瞳から溢れ出した涙を拭う。
泣いている翔の顔を覗き込みながら、心配そうに言う。
「何かあったのか?」
「…………の」
「?」
「来栖に会えなかったから寂しかったんだよ!」
翔は顔を真っ赤にして山中に響き渡る声で叫ぶ。
鼻水が出てきてかっこ悪いと思ったが、気にする余裕はなかった。
「来栖に会えなかったからだよ」
「寂しい思いさせてごめんな」
来栖は優しく翔を抱きしめるが、顔が見えないから何を考えているかわからない。
一度だけウィンフィールドに留まれば良いと言われたことがある。
そうすれば毎日会えるし2人で向日葵を見ることができる。
でも櫂と過ごせなかった時間を、今から過ごしたい。
そして学園を卒業すると希望したのは翔だ。
「翔、今度は俺から逢いに来るから待ってろよ?」
「うん!――って何で今日は突然来たんだよ?」
「ほら、どうせ明日は休みだろ?このまま、ウィンフィールドに来いよ」
「いっ?!」
「嫌って言っても無理矢理連れてくからな」
用意周到でワープ作りは手慣れたもの。
翔を無理矢理押し込み来栖も後に続く。
好きな人の言葉は本当にすごい。
涙はもう止まったし、感じていた不安はもうない。
この先何度も辛くなっても、来栖と何度だって会えるから。
「おはよう、直人」
「翔!お前、逢坂先輩となんかあったのか?」
「は?」
「逢坂先輩って転校しただろ?なのに逢坂先輩そっくりな人を見たって人がいてさ。翔とは結構仲良かったじゃん?結局、逢坂先輩と翔が恋人だって言い出しやがって俺がフォローしといたけどさ……って翔?」
「いや……何でもない」