02 私が嘘を吐き続けるのは、あなたに信じてもらいたいからだよ

外は雪が永遠と深々降り続ける。

全土制圧が終わると、戦艦に戻ったコナツはシャワーを浴びた後、綺麗な軍服に腕を通す。
東部と一緒に担当したテイトも先に回収されたことを聞いて一安心していた所だ。

「ヒュウガ少佐、テイト君は……?」
「我らが上司の逆鱗に触れちゃったみたいでねー☆」
飴玉を舐めながら言う口調はいつも通り。
遠回しとはいえ、その言葉が何を意味しているかすぐに解る。
ブラックホーク専用部屋に、軽いノックだけで早足で滑り込む。
鍵を閉めて目を凝らすと、地面に寝転がったテイトが見えて――コナツの意識が遠ざかりそうになった。

* * *

「アヤたーん……ちょっとやり過ぎじゃない?」
サングラスで瞳は見えないものの、声色から戸惑っているのは、他のメンバーも読み取れる。
軍服にはまだ血がこびり付いていて、回収と共に拷問が始まったのが分かる。
「……アヤナミ様、お言葉ですが拷問にヴァルスを使う必要性があるのですか?」
「コナツ、黙ってなよ」
返答はない。
クロユリが拷問を続けるが、下唇を噛んでいるのを見ると誰もが不本意なのだ。

「……あまり我が主の身体の負担になることは控えてくれぬか?」
闇を遮るように放たれた言葉と同時にテイトは突然立ち上がる。

「な!!――今までヴァルスに侵食されてたんじゃ?!」
驚いたクロユリが闇を濃くさせるが、テイトは気にすることはなく。
逆に微笑みながら、瞬きを繰り返した瞳が、緋く染まった。
「今言ったばかりだろう黒法術師!……主は休んでおられるのだ、負担を掛けるな!!」
クロユリに一気に近づき、強く肩を揺する姿は、普段のテイトからは想像がつかない。

「現れたか、ミカエルの瞳」
アヤナミの声で肩を揺する手は止まり、右手に宿る魔石に視線が釘付けになった。
禁じられたヴァルスファイルだからこそ解かる、この魔石は本物だと。
「まさか、未だロスト状態の瞳が既に帝国軍の手に落ちていたとは、ね……」
呟いたヒュウガは至って落ち着いていた。
コナツは威圧感から平常心を保つために、腰にある刀の鞘をぎゅっと握る。
クロユリはハルセに飛びついて、テイト、正確にはミカエルの瞳を見入る。

ミカエルの瞳は入り口近くにいるコナツの目の前で足を止める。
「水浴びだ!我が主は歴代の中でも、一・二を争う器なのだ!……さぁ、早く」

早く

言葉が脳内に波紋のように、響き続ける。
その声に眩暈がしたのは、コナツだけではないようで
「コナツ、シャワールーム連れてってあげて?」
隣にいた、ヒュウガも同様だったらしい。
言われた通り、コナツは鍵の掛かった扉に手をかける。
「こちらです」
「フェアローレン……主が自ら拷問を受ける慈悲を見せたからと付け上がりおって」
ドアノブを捻る音が響く。
「私の愛しい人が、何故帝国軍に留まり続けるか……考えたらどうだ?」