昼夜関係なくぬらりひょんは神出鬼没だ。
昼は自室の近くで幹部達と茶飲みをしているし、夜になれば定期的に総会がある。
会話するのは自然に互いに顔を合わせた時になる。
それは――あまりにも突然だった。
「リクオよ、そろそろ許婚でも作ったらどうだ?」
「へ?」
リクオは魚を掴んだままの箸を落としそうになるのをぐっと堪える。
「夜のお前は三代目を継ぐ以上、許婚の1人や2人いてもおかしくはないんだがのぉ」
「いや……ボクはまだ中学生だし」
「近いうちに写真でも集めておくか!」
完全に乗り気になった祖父を止めることはできない。
食事の最中は何度言い訳しても笑って返されるだけだった。
時間が過ぎるのは早い。
あっという間に日が沈み、夜――妖怪たちの時間がやってくる。
それはリクオにとっても同じだが昼のリクオは宿題を済ませると布団にもぐりこむ。
(ボク、何してるんだろう)
真っ暗な闇の中でぼんやりと思う。
夜のリクオは他の妖怪からすれば頼れる存在で度胸もある。
そして幼馴染が惚れるほど美男だ。
(偶然じいちゃんと会って許婚の話を聞いてしまったら…?)などと考えたら胸が痛んだ。
目尻から少しだけ流れる涙を布団で拭ってしまうと
「泣いてるのかい?」
麻薬のような優しくて甘い声で一気に引きずり込まれた。
被っていた布団を勢いよく蹴飛ばすと月明かりで人影が見えた。
少しだけ襖を開けて外を見ると、夜のリクオもこちらを覗いてきて――ぴしゃん!!
驚いて襖を閉めたら尻餅をついた。
「おいおい……そんな勢いよく閉めなくても良いじゃないかい」
「びっくりしたんだよ、ごめんごめん」
「そうかい」
今度は夜のリクオが襖を開けてから縁側に座り込むと、酒を注ぐ音がすると同時に独特の臭いが広がった。
杯を口に近づける途中で
「許嫁……」
と呟くと、全て飲み干してしまう。
リクオは背筋が凍ったように鳥肌がたつ。
「君、知ってたの?」
「じじいから聞いたが昼の俺が許可したらにしてくれって言ったんだ。お前の表情を見る限り……」
夜のリクオがじっと一点見つめ、そして突然口付けられる。
「安心した。お前が嘘でも良いと言わなくて」
互いの手を自然に絡めて力を込めた。