ルシファーを倒し、僕たちの世界――銀河系へ戻ってきた。
どうしてこの世界に戻れたのか。
あっち(FD空間)はどうなってしまったのか。
それは誰にも解らなかった。
確かめる術はある。
タイムゲートや端末を使用すれば変わらずFD空間に行けるだろう。
ルシファーや僕たちが行った行為、それは互いに干渉してはいけない一線を大幅に超えていた。
何事もなく、ただ無事にこの世界に戻って来られたことが嬉しくてメンバーはそのことに一切触れなかった。
ネルとアルベルは早々自国へ戻った。
マリアはクリフやミラージュと共にクォークへ戻り後処理をするらしい。
それに便乗してソフィアも地球へ戻り両親を捜しに行く。
マリアの誘いを断り、僕はエリクール2号星に残った。
アーリグリフ城のバルコニーから空を仰ぐと星が輝く。
想いを馳せれば旅の仲間の心配ばかりだ。
雪が降り始めると服を着込んでも寒い。
吐く息は真っ白で頬を触れると熱も感じられぬ程に冷え切っていた。
新しい生活を始めて2ヶ月が経過した。
シーハーツとの戦争は終結しても未だに問題は山積みで終わる気配がない。
アルベルの補佐としてフェイトも書類整理や残処理を行い、この国で生活していた。
エリクール2号星に残った理由はアルベルの傍に居たい以上にこの力とどう向き合えばいいか解らなかった。
戦いが終わっても生きている限り消えることはない。
いつ暴走するかわからない、また命が狙われるかわからない。
破壊の力「ディストラクション」――フェイト自身が1番力を恐れていた。
後ろからマントを投げられて後頭部に直撃する。
振り返るとマントを羽織っていても生足に腹を出す人物が……。
「風邪引くだろうが阿呆!」
フェイトよりずっと寒そうで風邪を引きそうな奴に言われても何の説得力もない。
昔から馬鹿は風邪を引かないと聞くが、それを言ったらきっと刀を振り回して大変なことになる。
ここは素直に好意に甘えて余計なことは言わないでおこうと決心した。
マントを肩から掛ければ幾分かましになったが、風が頬を撫でる度に皮膚の隙間から冷気が入ってくる。
「アルベル、会議はもう良いのか?」
「ああ」
「久しぶりにゆっくり星見たよ。やっぱり綺麗だな」
「お前の生まれた“ちきゅう”は何処にあるんだ?」
戦闘と強さ以外に興味を持ったことが珍しくて、目を丸くしてアルベルを見つめる。
その視線の意味に気づいたようで、アルベルはギロリと睨み刀を抜こうとする。
あわててフェイトは空を指さして言う。
「この空の星の中のどれかだよ」
「…………」
白い息を吐き出し、それが呆れたということに気づいたのはそれから暫くしてからだ。
いくら地球で生まれ育ったからといってこの星からの位置は解らないし、そもそも肉眼で見えるかすら怪しい。
「どこにあるか解らない星にいた僕とアルベルが出会ってるんだもんな。運命とかあるのかも?あはは……」
エターナルスフィアでもう1つのサーバとして使われていたアンドロメダ銀河があって、その中にも星がある。
FD空間から攻撃が行われる確率の方が高く、それ以下の確率で愛する人に出会っている。
少しぐらい感傷に浸ってもいいじゃないか!
「フェイト!さっさと支度しろ!」
「え?明日、視察でも出掛けるの?」
「阿呆か。旅に出掛けるんだよ」
国を救った功績と最近の仕事ぶりが評価され、王が褒美をくれたらしい――休暇という褒美を。
「アルベル!これからも……あーーっ!!これからも一緒にいさせてください」
「今更何言ってるんだ阿呆」
体を動かすことは嫌いじゃない。
逆に好きだし、今度は目的はない気ままな旅だ。
また明日から楽しくなりそうだ。