03 疲れ果てた深更

お名前(女)は部屋に戻ると、メッセージが届いていることに気がつく。誰だろうと疑問を持ちつつ、それを開いた。其処にはたった1行の文と差出人。

ユニウスセブンの件、確認。
ザフト軍
DREADNOUGHT

「DREADNOUGHT」コードネームだが、こんなことを送る人物はたった1人しか居なかった。それが嬉しい反面、これから起こる出来ごとはあまりにも大きすぎる。その事件の犯人がザフトだと言うこと。彼が知っているのだろうか?自分が否定していた父親の思想をまだ持ち、生きている人が居ることを。

また戦争になる。
それは目に見えていた。

「ありがと、カナード……」
その画面を見つめたまま、口元が自然と緩んだ。

「ふーん、けど何であれが?」

主に同じ年代が飲み物を片手に語り合う。その中にお名前(女)もおり、机に肘をついてぼーっとしている。ルナマリアが部屋に来たのがつい先ほどだ。メイリンがユニウスセブンのことについて聞いたからだった。

「隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がずれたか……」
「地球衝突コース、って本当なのか?」

ここで初めて口を開いたシンも落ち着いていた。今の彼の家はここでありプラントだ。地球は母なる大地だろうが、彼にとっては何の未練もないのだろう。人間は母なる大地だろうと戦争をし、自分達が壊しているではないか。母だろうと、生まれてきた大地だろうとお構いなしではないか。

どこが母なる大地なのだろうか?

「バートさんがそうだって……」
索敵を主に勤めているブリッジクルーの1人だ。彼の名前が出れば間違いないのだろう。
「はぁ……アーモリーでは強奪騒ぎがまだ解決してないってのに今度はこれ?どうなっちゃってんのよ……」
ルナマリアがそう言ってしまうのもわからなくは無かった。お名前(女)の内心も同じものだ。まるで狙っていたかのように、次々に起こる騒ぎ。きっと、条約を結んでも、ただの口約束にすぎないのだ。

「で、今度はそのユニウスセブンをどうすればいいの?」
視線が次々に映る中、レイが言う。
「砕くしなかない」
全員瞳を見開き、息をのむ。
「軌道の変更は不可能だ……衝突を回避したいのなら砕くしかない」
「でも、デカイぜ?あれ……ほぼ半分ぐらいに割れてるって言っても最長部は7キロは……」
「そんなもの、どうやって砕くの?」
「それにあそこにはまだ、死んだ人の遺体が沢山……」
さまざまな不安と疑問が生まれ消える。ようは砕かなくてはならない、それだけなのだ。多分、どこかの部隊がもう破壊の為に作戦を始めているかもしれない。
「だが、衝突すれば地球は消滅する……そうなれば、何も残らない……そこに生きるものは」
「地球滅亡……」
「だな……」
まるで他人事のような声だった。お名前(女)は1つ溜め息をついて、この場に付き合う。
「そんな!」
「――でもしょうがないんじゃない?不可抗力だろ?けど変なゴタゴタも無くなって案外ラクかも、俺たちプラントにとっては」

「よくそんなことがいえるなお前達は!!」
部屋に声が響く。それがカガリ・ユラ・アスハと知り、一斉に立ち上がり敬礼をした。シンとお名前(女)も何もせず、ただとカガリの顔を見ただけだった。
「しょうがないだと?案外ラクだろ?これがどんな自体か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるのか!!本当にわかって言っているのかお前達は!!!」
「すいません……」
「やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!!あれだけの戦争をして、あれだけの想いをして!やっとデュランダル議長の体制の元、変わったんじゃなかったのか!?」
「やめろカガリ……」
後ろのアスランが腕を引き、そう声をかけると叫び声が止む。だが、カガリの顔はまだ何か言い足そうな表情のままだ。

「アンタに言われたくない、そうやって言えるのは誰のおかげだとおもってんの?何も知らないで生きてるくせに……お前達のせいで、何人死んだかも知らないくせに」
ぼーっとしていた目つきはいつの間にかに鋭くなり、一気に殺気がカガリを襲った。それに続いて、シンもカガリを睨む。
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも。そんなのこともわかんないのかよ、あんたは……」
そしてカガリは再び、シンへの怒りを露わにるが、アスランが止める。
「シン、言葉に気をつけろ……お名前(女)もだ」
「あー……そうでしたね、この人エライんでした、オーブの代表でしたもんね」
シンはレイに言われ、嫌味を混じりながらもその言葉を吐き出した。お名前(女)はつい、言葉に出してしまいまずかったな、と思うものの、シンは止まることは無い。
「君はオーブが大分、嫌いなようだが、何故なんだ?昔はオーブに居たという話だが……。くだらない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのならタダではおかないぞ。それに、君もだ」
そうアスランはお名前(女)の方へ視線を移す。
「くだらない?くだらないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!――俺の家族はアスハに殺されたんだ!!国を信じて、あんた達の理想とかってのを信じて……!そして最後の最後にオノゴロで殺された!!だから俺はあんた達を信じない!!オーブなんて国も信じない!!そんなあんた達の言う奇麗ごとを信じない!!この国の正義を貫くって!あんた達だってあの時その言葉で誰が死ぬかちゃんと考えたのかよ!!」
そういったシンの紅い瞳は怒り支配されていた。家族のこと。妹のこと。この気持ちが今の全てなのだ。彼らを許すと、全てが終わる。家族のことを、妹のことを許したことになる。自分の生きる理由が無くなる。

「何もわかってない奴がわかったようなこと、言わないで欲しいね……」

部屋から出て行ったシンをヴィーノが追う。先どのカガリと同じくまだ言いたそうな顔だったが、必死にその気持ちを抑えているように見える。シンはわかっているのだ。言ってはいけないのだと、だが心が止まらない。つい、言葉に出てしまったお名前(女)と同じで、出て行ってしまったシンのことはどうしようもない。アスランは次へと言葉を向ける。

「君はどうなんだ?」
「へ?」
皆の視線が一気にお名前(女)へと移った。
「そうですね……自分側からしか見てない正義が嫌いなんです。例えば、あなたが生まれたことで誰かが死んでたり……とか」
はチラリとカガリを見てから、お名前(女)は立ち上がり、部屋を後にした。

「シン」
「お名前(女)……」
パイロットスーツに着替えた途端、お名前(女)は思いがけない人物に出くわして、驚いた。先ほどのことがあったせいか、シンとは少し逢いずらいのが本音だ。
「お名前(女)があんな風に感情を出すなんて驚いた」
「私だって感情は持ってるもの……嫌いになった?」
「ううん。前お名前(女)が言っただろ?俺に。だから俺もお名前(女)を嫌いになるなんてありえない」
「そっか、ありがとう」
そう、地面に目線を落としてお名前(女)は答えた。
『MS発進3分前、各パイロットは搭乗機にして待機、繰り返す……』
メイリンの声が艦中に広がる。そしてお名前(女)は顔を上げて、シンを見た。
「シン、がんばろうね」
「あぁ!」

お名前(女)はセレネへと乗り込む。
『MS発進1分前……』
頭で1分か、とお名前(女)はぼんやりと思う。だがメイリンの声が止まるなど、何かあったのだろうか?この落下がザフト軍ならば、何か妨害して来る筈だ。
『発進停止、状況変化……ユニウスセブンにてジュール隊がアンノーンと交戦中。各機対MS戦闘用装備に変更してください』
「ジュール……ってイザークさん?ディアッカさん、出てるのかな?」
やはり、だろう。こんな形で、妨害してくるとはお名前(女)も呆れて1つ溜め息を出す。それに、ジュール隊はヤキンの英雄とも称されるイザークの部隊。そう簡単にやられるとは思えないが、不安なことには変わりない。其処へまた通信が入る。

『ボギーワン、捕捉!!』
一気に緊張が走る。母艦だけとは考え難く、あの3機も出てくる。きっと艦長も、もう捕獲だとは言わないだろう。
『シルエットシステムはフロートを選択……進路クリア、セレネ発進どうぞ!』
「お名前(女)・名字、出ます!!」 もう大切な人を傷つくのは見たくなかった。