きょろきょろと辺りを見回しては、足を進める。
特有の雰囲気は当たり前になっていた。
当たり前すぎて気に留めていなかったが、この雰囲気が“異常”だと確信したのは、先日なのはが撃墜されてからだ。
お名前(女)は援護という形でフェイト同様駆けつけることができたが、結界内は言葉にしがたい空気に包まれていた。
今日は予定もないので本能の赴くまま住宅街を歩いている。 体が近づきたくないと感じる方へ進んでいるだけだ。 そう、本能は立派に察知してくれている――この先に“何か”がいると。
カラスの鳴き声が響く団地、ひっそりと佇む一軒家。
庭は手入れが行き届き、今でも誰かが暮らしていることがわかる。
その小奇麗さが、逆に生活感をなくしていた。
「自分たちは何もおかしなことはしていません。ここには存在していません。」――こう主張しているようだった。
お名前(女)は玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐに足音が近づいてくる。
「はーい! どちら様でしょう?」
「こんにちは」
「あら? はやてちゃんのお友達?」
玄関を開けたのは赤紫色の瞳の女性のだった。
彼女の声色と表情は場が和みそうな、朗らかな人だった。
こういう人が奥さんだったら幸せだろうと言われるタイプだ。
スタイルも悪くない上に美人でナンパされていても不思議ではない。
服装も騎士服ではない。現代のものだし、お名前(女)が想像した以上にこの世界に溶け込んでいる。
「ヴァルキュリア」
「All right. Start examin.」(了解しました、検査開始します)
「なっ!!」
宙に浮いてふわりと対象に近づく……。
咄嗟に出した彼女の右手が淡い緑色に光った途端
パチン!!
弾くような音がした途端、ヴァルキュリアの動きが止まり、検査機能が停止した。
デバイス自体に大きな破損があるわけではないらしく、そのままお名前(女)の手の平に戻る。
ここで拒否反応を起こすということは、間違いなく黒だ。
「finished.」(終了しました)
「ありがとう。私は名字お名前(女)です。あなたは?」
「…………」
答えないのは――当然だろう。
敵に名前を教える馬鹿がどこにいるだろうか。
早くしなければ仲間を呼ばれるし、お名前(女)は質問を変えた。
「生き生きしているのがわかる……創られた物じゃないみたい。きっと事情があるんですね?」
「ええ。我が主と、静かに暮らしていたかったんです。 でも、それが……」
ひどく悲しい表情だった。
まるでこの世の終わりだと言わんばかりだった。
確かに主が死亡すれば彼らも消滅する為、終わりのことに間違いないが。
目の前の存在は、闇の書の守護騎士なんかじゃない。人だった。
誰かの死を恐れ、嘆き、その運命さえも打ち壊そうとする。
「詳しい事情はわかりません。譲れないなら、正々堂々と真正面から向かって話を聞きます!仲間にも伝えてください!私の他に優しい女の子2人が聞く、と。それに友達のリンカーコアを取られた借りも変えてませんからね!」
静かな 宣戦布告