またサボっちゃった。
だって学校嫌いなんだもん……別に行きたくて行ってるわけじゃないし。
どうせ行っても行かなくても、同じことしか言われない。
簡単に言っちゃうと――登校拒否児です。
学校に行かぬ子供はテレビで取り上げられるようになってから関心が高まった。
一応中学校2年生、来年には一応受験というイベントが待っている。
テストは殆ど受けておらず緊張感の欠片もない。
「ふわぁぁぁ~ねむい」
欠伸をしながらテーブルの椅子につくと朝飯を食べ始める。
トーストを片手で口へと運び、空いてる手でTVの電源を入れた。
ニュースでは殺人事件を中継をしており興味が無いからすぐに視線を逸らす。
軽食を済ませると食器を流し台へと運び、片付ける。
自室に戻り着替えようと思った時――大きな電子音が部屋中に広がった。
毎回その音に身構えてしまうのは、完全な癖だろう。
手に取ってディスプレイを見ると親友の友人のお名前からだ。
「もしもし?」
「あ。お名前(女)?」
「おはよう。朝からびっくりしたじゃん!」
「まだ寝てたとか~?」
「もう朝食食べたし!」
その他は中学校に入学したばかりの頃にできた友達だ。
学校に通わなくなっても頻繁に連絡もしてくるし、よく家に遊びに来る。
「んで、何かあったの?」
「アンタ、また今日も来ないの?ちょっと前までは一応学校は来てたのに」
「最近、いろいろとあって」
嘘は言ってない。が、心配も掛けたくないし自分が臆病だから思い出したくない。
「お父さんには会ったわけ?」
「まだ返事ないからわかんないよ」
「とにかく!今日ぐらいは来れば良いのに……一学期の終わりだよ?しかもその他先生も心配してたし」
「うっ……」
その他先生を出されるとぐうの音も出ない。
心配してたと言われると悪いことをしている気分になる。
(いや、悪いことなのかもしれないけど)
「考えとく。いや、気が向いたら行くはずです。はい」
「はいはい……。んじゃ、また後で電話するわ!」
電話は切れたことを告げる音が虚しく感じた。
お名前(女)は階段を上りながらぼんやり思う。
完全に忘れていたが、今日は一学期最後の日だ。
通知表やプリント配布が多くややこしい日でもあるが自分には関係ないと思っていた。
自室のカーテンを開けようとして、呼び鈴が鳴って、そっと隙間から外を覗く。
そこには友人のお名前の姿が在るではないか!
(なんでいるんだ!!!)
物凄い速さ、足が縺れるほどに玄関に一直線に向かう。
「なんか用事ですか!?」
「いやぁ~、強制的に連れて行こうと思って?」
「……それで?」
そう言いながらお名前(女)が遠慮しがちに視線だけ向ける。
最初は友人のお名前に気をとられて存在がわからなかった。
中学生なのに身長170cmぐらいはあると思われる同じ学校の制服の男の子。
「あぁ、コイツは真田一馬。一緒のクラスなのに覚えてなかったの?」
「そうだっけ……。もしかして彼氏?」
「へ? 違う違う!」
からかったつもりが、大きなリアクションをしながら否定する。
(ここまで否定されると、真田くんとやらにも、申し訳なくなってきた)
「あはは……ごめんね。冗談だよ」
「それより早く着替えてきなさいよ……ちゃんと包帯もね!」
「はーい」
少し顔を出す位いいだろう、観念した。
自室へ着替えに戻っているのを見計らって、一馬は友人のお名前に問いかける。
「アイツ、怪我してるのか?」
「あ~怪我っていうか。自分で切ってるって言うか……」
「…………」
一馬はその返答を聞いて悲しくなった。
再び玄関へ戻ってきたお名前(女)が口をだす。
「……ところで、2人は学校大丈夫なの?」
「……!!」
「だ、大丈夫! お名前(女)を連れてきたって言えば良いんだもんね!――んじゃ、しゅぅぱっつ!!」
お名前(女)は家の鍵を閉めて仕方なしに2人の後に着いて行く。
夏休み前の長い一日の始まり。
ぐぐぐぐ……最悪!
どうしてこうなるかな……絶対に行かないって思ってたのに。
野上ヶ丘中学校に着いのはHRが始まって20分ほど後のこと。
3人は説教を食らったもののがお名前(女)を連れてきた事で免除してもらった、という言い方が正しい。
表立って表情に出さないが、先生は喜んでいる様にも見えた。
「だから、学校来いって言ったでしょ?」
「別に良いじゃん……」
「ほら! 真田も何か言いなって!」
友人のお名前は一馬に話題を振られたが、突然すぎて何も考えておらず、反射的に言葉を漏らした。
「え?」
「友人のお名前……真田君困ってるってば」
自然とクラスの方に足が向くと、お名前(女)だけ駆け足で反対に反対側に向かう。
その行動に気がついた一馬は指を指しながら友人のお名前に小声で聞く。
「おい、友人の名字……アイツ何処行くんだ?」
「お名前(女)! 何処行くの?」
「聞かなくてもわかるでしょ~?」
「はいはい……」
友人のお名前は見当がついたらしく溜め息ををついた後、無言のままクラスへ向かった。
野上ヶ丘中学校に着いのはホームルームが始まって20分ほど後のこと。
3人は説教を食らったもののがお名前(女)を連れてきた事で免除してもらった、という言い方が正しい。
表立って表情に出さないが、先生は喜んでいる様にも見えた。
「だから、学校来いって言ったでしょ?」
「別に良いじゃん……」
「ほら! 真田も何か言いなって!」
友人のお名前は一馬に話題を振られたが、突然すぎて何も考えておらず、反射的に言葉を漏らした。
「え?」
「友人のお名前……真田君困ってるってば」
自然とクラスの方に足が向くと、お名前(女)だけ駆け足で反対に反対側に向かう。
その行動に気がついた一馬は指を指しながら友人のお名前に小声で聞く。
「おい、友人の名字……アイツ何処行くんだ?」
「お名前(女)! 何処行くの?」
「聞かなくてもわかるでしょ~?」
「はいはい……」
友人のお名前は見当がついたらしく溜め息ををついた後、無言のままクラスへ向かった。
「ところで何処行くんだよ。名字のやつ」
「だから、保健室。――ってアンタお名前(女)のこと、好きなんでしょ?!」
「え?!まぁ……」
「折角、誘ってあげたのに。鈍いところあるから絶対気がついてないよ」
呆れたような目付きでうかがうが、一方一馬は不貞腐れたように目線を泳がす。
「だろーな……」
「けど、本当はすごい大人しいんだよ? 明るく振舞ってるけど、本当は静かで無口で」
登校中2人で笑ったり、話しをしている姿を見ているので、全く想像がつかなかった。
「その場の雰囲気?っていうのかなぁ……気にしすぎるんだよね。家庭事情も複雑だし」
「なんで?」
「なんで、って……それはお名前(女)の両親に聞くべきでしょ。――って言いたいところだけど、母親は仕事に夢中だし、父親は音信不通らしいのよね」
「音信不通……」
「私も中1の夏頃から、結構頻繁に遊びに行ってるけど、お母さんには一度も会ったことないかな。だから死ぬほど寂しいんだよ。真田……孤独とか死に等しいほどの寂しさって体験した事ある?」
「無、い……」
教室の扉にそっと手を掛けて開ける。
古さを感じさせる音が響く傍らで、
「それと、アンタの行動でお名前(女)を傷つけたら許さないから」
一馬の耳には確かに届いていた。
(オレは、本当は……名字のことを)
保健室に駆け込んでからその他先生とお名前(女)の世間話は続く。
「でも、良く来たわね?」
「あはは……本当は来ないはずだったんだけどね」
「あ~! 友人の名字さんに連れてこられたんでしょ?!」
「当たり~!」
久々に互いに顔を合わせたが、その他先生は嬉しそうに微笑んだ。
「こんな事聞くのも何だけど家の方は?」
お名前(女)の視線が泳ぎ、ん~、と、言い出すのを戸惑う姿を見せるのは珍しかった。
「母とはロクに話し出来なかったし……海外出張だって言ってたから1ヶ月は戻って来ないかな?」
「お父さんとは連絡とれた?」
「いや……前に会った時に携帯電話の番号教えてもらったけど、もう番号変えられてた」
「とにかく! 今日は学校へ来たって事で大目に見てあげる」
「やったー! 先生ありがと!」
笑顔でお名前(女)は返事をするがその他先生は知っている。
この笑顔は作り物で本心からの笑顔じゃない、と。
大人になれば嫌でも殺して生きて行かなきゃいけないというのに。
「お名前(女)さん……自分を殺して生きる事にまだ慣れちゃ駄目よ?」
同時にお名前(女)は眼を見開いて、軽く唇を噛んだ。
「わかってる」
学校で、もしかしたら一番賑やかな時間かもしれない。
私にとっては、さほどいい時間では無い。
行動の制限が緩くなるから――。
友人のお名前と一馬が保健室に顔を出したのは昼休みになってから。
だがお名前(女)の姿はなく、行方を知っていると思われるその他先生に話し掛ける。
「その他せんせーっ! お名前(女)は?」
「お名前(女)さん? 屋上に行くって言ってたわよ?」
「そう、ありがと!」
居場所を聞いた後、すぐに肩を叩かれた一馬は驚いて震えた。
「な、何だよ!」
「真田……お名前(女)のところ、呼んで来て!」
「は?」
「だからそのまんま! 行って来て」
さらに強く言われ、逆に考えてみれば断る理由などない――が、些か気恥ずかしい気持ちは拭えなかった。
(はぁ……お名前(男)があんな子だったなんて、意外だよな……)
普段屋上は立ち入り禁止になっているが、生徒たちは廊下の横の窓から出る場合が多い。
その行動は、本来ならば注意すべきところだろうが、学校にいる教師も大きな事故もないせいか、黙認している状態だ。
埃が被った窓から出ると、青空と殺風景で何も無いコンクリートが広がる。
辺りを見回すがお名前(女)はおらず、影を覗くと足だけ見えた。
「あの……」
お名前(女)は横たわったままで、全く反応がない
まるで屍のようにピクリとも動かず、逆に不気味だ。
軽く肩を叩いてみても、一緒で。
「…………」
「ふざけんのか。――おい、お名前(女)!」
額に触れると、大量の汗が指先について――。
動かないお名前(女)を抱え、急いで屋上の扉を開ける、が、当然鍵が掛かっており開くはずもない。
普段の光景を思い出すと、チェーンや南京錠で止められてはいなかった。
ドアノブを握った自分の手の影に、内鍵を見つけ回すが、扉が開くかは別問題だった。
少し押すと――軽く空いてびっくりした。
物凄い足音が聞こえ、保健室にいた人間は廊下に視線をむける。
「なんだろ?」
「おい! 友人の名字、その他先生!!」
「どうしたのよ」
真っ青な顔色、声の振るえが尋常じゃないのを感た途端、4人が背中のお名前(女)が、目に飛びこんで来る。
「寝かせてもらえる?」
「4人は教室で授業受けてね?」
その他先生は背中を押して急かすように、保健室から廊下へと出した。
教室に行く間、4人に会話は一切ない。
先に話を切り出したのは友人のお名前だった。
「私、トイレ寄ってくから」
「……友人の名字、泣いてるのか?」
噛み締めていた奥歯を開放し、友人のお名前は振り返る。
目元を真っ赤にして、頬に濡らす涙があった。
「…………泣いちゃ悪いわけ?」
強気で言ったのだろうが、声は震えているからすぐに解る。
「お名前(女)には……私と先生だけじゃ、足りないの」
「何が?」
「……支えてあげられなかった。お願い真田!お名前(女)を支えてあげて」
もう夏休みだというのに、彼女の倒れた姿を思い出したが、脳が考えたくないと思って一瞬にして消滅させる。
授業は進む、学校でこんな事件があったとも知らずに……。