ネックレスの似合う細い首

今後の説明を一通りしてから海馬はデスクの引き出しから箱を取り出す。
「遊戯、これをつけろ」
「なに?」
遊戯は何も考えず受け取ると、手触りから紙製だとわかった。高さ5センチ程で重くない。蓋を開けて目に入ったものは――
「チョーカー?」
(と、なにこれ……コード?)
感触は革で、デザインは今愛用しているものに似ている。正面側に銀色に輝くタグプレートがぶら下がっている。光りの反射で凹凸があることがわかり、じっくり眺めると見慣れたロゴマーク。
(海馬コーポレーションのマークだ)
タグプレートを裏返すとそこには“Seto Kaiba”とあり
「い!?」
遊戯は変な声を出した。

チョーカーを着け始めたのはもう一人の遊戯が「付けたい」と言い出したからだ。それまで学ランの中にレザーボンデージを着込んでいたが、チョーカーと一緒に着ることはできず、身軽なノースリーブにしたら彼は気に入ってくれた。もう一人の遊戯が冥界に逝ってからも肌身離さずつけている。慣れとは恐ろしいもので、長時間外していると落ち着かないのだ。

たまにキツく絞めると脳の酸素が奪い、解放して一気に酸素を吸い込んだ時の快感は他に例えようはなく――止められない。
海馬も二の腕とふくらはぎに革ベルト着け、本人はアクセサリーのつもりらしいが服を脱ぐとうっすら赤い跡が残っているから強く絞める癖があるのは知っている。それを見ると喉がゴクリと鳴るほどドキドキする。
何にせよ、変わった性的嗜好で困ったものだ。

「海馬くん、もしかしてボク、ペット――とか?」
犬や猫だと思ったが口にしないどこう。海馬は遊戯が何をを感じるか承知の上でこんなものを渡しているのだ。
押し返したいが、きっと海馬は怒り狂うだろう。今まで遊戯に渡してきた物のほとんどがオーダーメイドと庶民は手が出ないような高級品ばかりだった。それを返されたらショックだろうし、海馬のプライドに傷がつく――それに気付いた時、遊戯は素直に受け取るようになった。嬉しいかどうかは別として。

「ほう。お前にしては珍しくまともな返答だな。さっさとつけろ」
「今直ぐ!?」
「そうだ」
渋々お気に入りのチョーカーを外し、プレゼントされたばかりの品を身につけると、海馬が顔を近づけ、しげしげと見てきた。そしてチョーカーの近くで何かをかざすと電子音が鳴り、遊戯は不安そうに海馬を見上げた。
「ねぇ、何か音が鳴ったんだけど」
「遊戯、これはお前専用のウェアラブル端末だ。GPS機能で自社衛星からお前の場所が直ぐに判る。身体に異常があったり、一定時間内装着が確認できなかった時もオレの元に知らせが届く」
「え?!じゃあこれ、お風呂ぐらいしか外せないじゃん!」
「防水・防塵・耐衝撃機能もつけてある。そのまま入浴しても構わんぞ?どうしても外したければオレの元に来い」
「どういう意味?」
海馬は人差し指と親指で摘むように持つ長方形の何かを見せる。ライターより小さいそれをチョーカーもとい首輪の横で往復させると電子音が鳴った。
「これにICチップが搭載されている。これを通せば全ての機能が停止する」
声のトーンが上がり、機嫌がいいことがわかる。 チラリと見上げると釣り上がった口元と見下した視線……遊戯の背が伸びたとはいえ、追い越すことはできず、この関係は一生変わらないだろう。 遊戯は少しだけ悔しくて、頬を膨らませるように拗ねた顔をする。
「監視じゃん」
「フン、今日は頭が冴えているようだな。その通りだ」
海馬はタグプレートを指先で持ち上げ、ジッと見つめる。誰に何と言われようが構わない。自分の物だと見せ付けたい。どんな手を使っても離さない。――それだけだった。
(お前と、二度と離れたくないのだ)

切なそうな眼差しに、遊戯はタグプレートに触れている海馬の手を両手で優しく包む。顔を上げれば深い青色の瞳と視線が交わり、照れながら微笑んだ。
「これ、ありがとう。大事にするよ」
海馬から返事はなく優しいキスをされ、唇が触れた瞬間ドクンと胸が波打つ。
「遊戯、来い」
互いの指と指を絡ませ、海馬の手に引かれて向かう先は寝室。遊戯は何をするかわかり、頬を赤く染めた。