Panic×2 Hell

[su_icon icon="icon: exclamation" background="#9c1423" color="#FFEA65" size="20" shape_size="6" margin="5px 10px 5px 0px" target="self"][/su_icon]「04 typeA 2つの道でも思いは1つ」の後

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「な、なにこの臭い……」
城のとある廊下に差し掛かると同時に、鼻にくる臭い。
人にとってはどうかは分からないが、シュウトにとっては完全に悪臭だった。
廊下を進めば進むほど、臭いは濃くなる。
ふと目に付く、扉。
シュウトは恐る恐る、そのドアから中へと足を踏み入れる。
臭いの濃さからして、この中が元凶のようだ。
手で鼻と口を覆っても、実際には特に効果はないが、精神的に助かる。
部屋の奥へ進むと、人影が見えたので声をかけてみる。
「あ、あのー……」
「おや、この様な場所に何用ですか?姫君」
窓からの逆光で、顔が見えかったが、そう言った
人物は、黒ずくめでそれでも何度も顔を会わせている人物。
デスサイズだった。
「で、デスサイズ!この臭い、廊下まで漏れてたよ?」
「そうでしたか?」
慣れきっているのだろうか、デスサイズの顔は落ち着いていたままだった。
「窓、開けていい?」
シュウトは許可を求めたが、半端強制的に窓に近づく。
「うわっ!!」
と、同時に何かに蹴躓き、部屋にあった本棚に倒れこむような形になり、それだけでは終わらず、本棚の上から瓶が落ちてくる。
そして、落ちてきた瓶の中に入っていた液体を、シュウトは頭から被った。
「大丈夫ですか?!シュウト君!」
2人にとっては、本当に一瞬の出来事。
「うわー……あ、うん、大丈夫!」
シュウトは手で被った液体を拭った。
それは少し粘り気があり、甘い臭いが辺りを漂う。
一瞬だけ眩暈がするが、再び意識がはっきりする。
「シュウト君?」
「デスサイズ、怖かったー!!」
そう言いながらシュウトは思いっきりデスサイズに抱きつく。
「?!」
「デスサイズは僕のこと、嫌いなの?」
「…………」
いつも冷静に物事を見ているデスサイズだが、今回ばかりは言葉を失う。
べっとりと被った液体が光で反射し、唇が色っぽく見える。
「とにかく、トールギス様にお話しなくては……」
抱きつかれたままの体制でデスサイズは言うが、頭の中では完璧に1つの結果へ行き着いていた。
「惚れ薬、だと?」
結果を話したデスサイズの隣には、湯から上がり他の服に着替えたシュウトの姿がある。
トールギスは額にくっきりと血管が浮き上がっていた。
「それで、直す方法をさっさと言え!」
「特殊な薬草を煎じて飲めば直りますが、生憎その薬草を切らしています……」
「ヴァイエイト、メリクリウス!取りに行け!!……それにシュウト、お前は席を外せ」
「どうして?僕、デスサイズと一緒に居たいのに!」
「――?!」
言いたいことをいい落ち着いた声に戻り、血管も消えたはずのトールギスだが再び額に血管が浮かぶ。
惚れ薬でそう思い込んでいるだけだと分かっているが、本人から聞くと思った以上に衝撃を受ける。
「シュウト君、私からもお願いします」
「わかった……」
「!!」
そう言ってシュウトはしぶしぶながら部屋の外へ出た。
デスサイズの言う事を聞いた事がますますトールギスに衝撃を与える。
「全く……」
トールギスは溜め息をついた。
シュウトはずっとデスサイズの隣に居た。
城の中を歩いて見たり、王家に伝わる伝説を聞いたりして時間を過ごしていた。
2人の声が響いていたはずの部屋にノックの音が鳴る。
「デスサイズ様、薬草を取って参りました」
ヴァイエイトが包みから薬草を手渡した。
そしてギロリとデスサイズを睨むと一礼して、部屋を後にする。
「わかりました。シュウト君、お茶にしましょう」
「わかった!」
ティーカップを2つ。
ティーポットに薬草とお湯を入れ、カップの横に並べられる。
数分待ち、カップにエメラルドグリーン色の煎じた水が注がれる。
「綺麗……でも匂いが凄いよ?」
「そうですか?ですが、本当に美しい色だ。まるで貴方の瞳の色ですね」
「僕?」
ええ、と答えながら、デスサイズはシュウトの真横まで移動し、注がれたお湯を名残惜しそうに見つめた。
そして、カップの煎じた湯を飲み、すぐにシュウトの唇に自分の唇を重ねる。
数秒経ち、唇を離すと同時にシュウトは椅子から落ちて、床へ座りこむ。
「…………」
「大丈夫ですか?シュウト君」
「え?うん……散歩して、伝説を教えてもらって……あれデスサイズ?」
「…………」
その問いにデスサイズは何も答えなかった。
一瞬でも自分に笑顔が向いてくれるだけで幸せだった。

偽りだとしても。
それでも感情が高ぶった。

あの方も私に向けてくれるだろうか?

この本当の笑顔をもう一度だけ自分のモノに…。