「トールギスには赤が似合うね……」
シュウトとトールギスは城の壁近くに生えているラクロアンローズを見に来ていた。
今回はトールギスが一緒の上、見付かった訳ではなくちゃんと許可を貰っている。
そんな時に、漏らした一言だった。
「……確かに“赤”は嫌いな色ではないな」
赤。
三原色の1つで、最も生命というものが色濃く出たものは無いだろう。
命の炎も赤い色。
そして人間の血の色も赤い色。
時として“赤”は人間の負の感情をも表現できる。
それを思うと、トールギスにとっては嫌いな色では無かった。
「そうなの?」
「だが、何故、赤が似合うと思ったのだ?」
「瞳の色と同じだし……それに、体ボディが白だから綺麗に映えるかな、って」
その後にシュウトは確かにゼロには紫……青系が同系色で合うしね、と付け加えた。
「アイツの事は言うな」
ハッとしたようにシュウトはトールギスに謝る。
「あ!ごめん……」
日常会話で何回彼らの話が出てきただろうか?
いつでも仲間のことを想っている、そんな所も魅力の1つなのだろう。
だが、トールギスにとっては一瞬でも自分以外の誰かを想うなど、実の所許しがたかった。
自分だけを見ていれば良い。
自分勝手な妬みだと分かっていても、そう思わずにはいられない。
今の心の色は黒により近い“赤”なのだろう。
「本当にごめん。気、悪くしたよね……」
「いや、良い。俺こそ、悪かったな。それより、摘んではいかないのか?」
トールギスの言葉を聞き、安心した表情をシュウトだが、再び少し困った顔をした。
「摘むって!」
トールギスから視線を花へと戻し、答える。
「だって、こんな状態ときに咲いたんだよ?摘めるわけないよ……」
「シュウト、お前はそういう考え方の人間だったな。なるほど……確かに俺も美しいものは嫌いではないからな」
自分より他のモノ。
瞳を閉じれば、すぐに鮮明に蘇るあの光景。
人質に取った時、翼の騎士やあの卵を最後まで庇っていた。
それを考えればまた行き着く先は妬み。
考え出せばキリが無い。
瞼を開け、1つ溜め息をつく。
「トールギス?」
名前を呼ばれるが何も答えず、右手をギュッと握る。
そして、ポンっと出てきたのは、赤いラクロアンローズ。
「代わりにこれでも持っていろ」
「これ!!――うん、ありがとう!」
嬉しそうにお礼を言ってシュウトは、大切そうに花を受け取った。