03 I want to hear a reason

薄暗い一室。
そこにトールギスとシュウトは居た。
執務室という訳ではないが、普段、トールジスが篭りに篭っている部屋だ。
作りはあまりにシンプルだが、室内はこれでもかという程散かっている。
床にはありとあらゆる紙や本が散乱していた。
それは何かを探しているという事実を裏付けてる。
トールギスは相変わらず、資料から視線をそらない。
そんな時にシュウトが放った一言だった。
「ねぇ、どうして?」
「何故、か……」
やはりトールギスは資料から視線を逸らすことは無い。
それでも思考は全く別のことが占めている。
「それに、何か隠してること、あるんじゃないの?」
「何故、そう思う?」
「それは――……」
シュウトには確信出来る心当たりはある。
でもそれを言ったら、どうなるかわからないのが怖かった。
「確信が無いのなら、余計なことは考えるな」
「でも僕……!」
座っていた椅子から勢い良く立ち、トールギスの近くまで移動する。
「でも僕、何となく、わかるから……」
「何が解るというのだ……」
疑問系でも肯定でもないトールギス言葉。
「トールギス?」
その言葉を言った彼はあまりに切ない瞳をしていて、シュウトも泣きそうな表情になる。
どうしてこんな表情をするの?
シュウトに疑問が生まれる。
どうしてこんなに胸が痛いのだろう?
他人でも悲しい、切ない顔をすれば自分だって同じような目にあっている気がする。
だから、和らげてあげたいと思う。

でも この感情は何?

このトールギスを見て思った感情おもいは何?
いつも思う“和らげてあげたい”じゃない。
何?
何だろう?
「ごめん!変な事、聞いて……調べもの、がんばってね!」
シュウトはそれだけ言うと、少し早足で部屋を出た。
まだ、心ここにあるものは晴れない。

 

シュウトはトールギスの部屋から出た後、とぼとぼと廊下を歩いていた。
【 隠している 】
問い詰めたのは自分。
確信できると思った、そんなものがあったから。
ここ数日で一段と城の中は騒がしくなった。
ただ、気分が高いだけなら良い。
そうではなく、ピリピリするような。
そんな雰囲気が充満している。
城のいる者に聞いても、口止めされているのか一人として口を割らなかった。
きっと何かが。
そう思ったから聞いたのだ。
その結果、トールギスとは気まずくなった上に別の感情が心を支配する。
もうこんな感情はいらないと思ってしまうほどにその感情は大きかった。
シュウトは足を止め、廊下の窓から空を見上げる。
このラクロアに来て大分経つ。
それで「何か」変わったのだろうか?
「おやおや……お気に入りの姫がこんな所へ、何の用です?」
空を仰いていた途端に聞こえた声。
シュウトは周りを見渡すも、誰1人居ない。
空耳かと思いたいが、この声をどこかで聞いているような気がする。
そう思った瞬間に、その影やみは姿を現す。
「君は……」
「ここで逢うのは初めてですね、シュウト君」
確かに戦場で1度、逢っていた。
「デスサイズ……」
闇にふさわしい漆黒のボディ体。
人の姿をすると、黒髪なのかな?と考えてしまうのは今はもう珍しいことじゃなくなった。
「ここは城の中央からずいぶんと離れていて、滅多に人は来ませんよ?」
「そうなの?」
「えぇ。相当の物好きなら別ですが……あぁ、そうだ……
なんなら、私がトールギス様が隠している事を教えてあげてもいいですよ?」
「!?――何で知ってるの?」
「何ででしょうね?」
デスサイズには「からかう」と、そして別の感情があった。
「そんなにネオトピアに帰りたいのなら私が帰してあげますし、ね……」
「それって何かあるの?」
「いええ?気まぐれですよ」
「でも、良いやトールギスから聞かないと意味ないと思うし……」
条件としては最高だ。
気まぐれでもなんでも助かる。
「随分と主を、気になされてもらってるのですね。どこまで進んだのです?」
デスサイズから出た言葉は先ほどの内容とはまったく別の話。
シュウトは目を丸くしてデスサイズを見た。
「?話とかするだけだけど?」
「鈍いんですね、自分の感情に……」
「に、鈍いなんて!」
「なら、その想いはなんなんです?」
言葉をなくしてシュウトは黙り込む。
エスパーとでも思うが、彼のことだから何でも有りなのだろう。
気になる感情。
会話に集中していて忘れていたが、何もしてなければこの気持ちが一番強い。
気持ちを深く考えることもあり、ますます、大きく感じる。
「トールギス様が誰か他の美人な女性と話をしていたらどう思います?」
「そんなの、――い……」
とっさに出てきた。
ありえないことなのに?
それ以前に想像できない。
嫌?
嫌って何?
どうして嫌なの?
「……まぁ、後は自分で考えてください」
デスサイズは一瞬にして消え去り、その言葉は頭の中でエコーのように響いてから消えた。

 

デスサイズの言葉はすぐにでも思い出されるのに、あの出来事から数日は経った。
感情の答えは見つからぬまま。
トールギスとも全く逢っていない。
「よーっす!」
部屋のドアを蹴り破りそうな勢いで入ってきたのは、トールギスの腹心の2人。
「こんにちは、シュウト君」
以前と変わらず人の姿をしているので、感情が読み取りやすい。
シュウトが見る限り、この2人にはあのピリピリしたような、そんな雰囲気は無かった。
「2人とも、いらっしゃい」
「えぇ。最近、元気が無いような気がするのですが……大丈夫ですか?」
ヴァイエイトが心配そうに問う。
それを聞いて何故かハイだった、メリクリウスもピタリと笑うのを止めて真剣な顔つきになる。
「うん。心配してくれてありがとう、大丈夫だよ」
「本当かぁ~?前まではあんなに逢ってたトールギス様とも逢って無いみたいだし、何かあったのかと思ったんだけど」
メリクリウスは変な所が鋭くて困る。
まさに図星でシュウトからはすぐに言葉が出ない。
「…………そう!忙しいみたいだから!」
「今の間はなんなんです?」
ニコリと笑ったヴァイエイトの笑顔がやけに怖かった。
「図星、か。……んで、何があったんだよ?相談乗るぜ?」
隠す必要もないか、と思ったシュウトは2人にトールギスとの出来事を話す。
2人とはラクロアに来てからすぐに再会した後、いろいろしてもらった。
例えば、暇で仕方ない時に話し相手になってくれたり。
時々、秘密で散歩に連れて行ってくれたり。
些細な事でも、シュウトはとても救われたのだ。
彼らの言葉は確信を突いてくる。
それが嫌だとは思わない。
見合った、アドバイスをしてくれるから。
「はー……そんなことがねぇ。どう思いますかね、ヴァイエイトさん」
「トールギス様、やっぱり言ってなかったんですね」
「やっぱり?」
オウム返しのようにシュウトはヴァイエイトに返す。
「あ……ええ、でもこれはトールギス様から聞から聞いた方が、いいでしょうね」
「それに……天然というか、鈍感、要は鈍いんだな」
「もう、メリクリウスまで!僕は鈍くないよ!」
でもここまで言われると実は本当なのかもしれない。
シュウトは言葉の終わりに後から、多分、と付け加える。
「嫌だけど、あいつの言ってる事、当たってるな」
メリクリウスは目を閉じて、うんうんと頷いた。
「嫌」という単語に疑問を持つが、デスサイズとメリクリウスは
あまり仲が良い訳ではないらしく、馬が合わないと2人とも断言している。
次にヴァイエイトが口を開く。
「その感情の答えが自分で変わらないのなら、我が主・トールギス様にその気持ちを聞いてみればいいじゃないですか?
ただ、気まずいだけで、2人とも嫌いではないのですからね……それに仲を直す良い機会だと思いませんか?」
「……でも、また……」
「大丈夫ですよ、トールギス様は解っていますから」
「そっか……なら聞いてみるね、ありがとう、2人とも」
お礼を言った時の笑顔は少し気持ちが晴れたような顔だった。
「良いってことよ!」
「そうです。お役に立てて、幸いですよ」
心に複雑な感情を持ちつつ、ヴァイエイトとメリクリウスはそのお礼に答えた。