01 全ての始まりはここから

「ん~!!気持ちいいな」
シュウトは家の近くの芝生に座り、伸びした後、寝転んだ。
自分の瞳には青い空しか映らない。
まだ出会ったばかりの頃、キャプテンともこんな風に空を眺めたことを思いだす。
強くもなく弱くもない、そんな風が心地よい。

「シュウト、こんな所にいたのか!」
寝転んだシュウトの横にゼロが急に姿を現す。
シュウトは上半身だけ身体を起こし、ゼロを見た。
「ゼロ!どうかしたの?」
「いや……ただ、シュウトと話がしたかっただけだ」
ゼロは浮いていた状態から足を地面に付ける。
そして莫大な被害を被りそうな、1つの事実を告げぬまま。
そう、爆熱丸もシュウトを探している事実を。
「そういえば、いつも思うんだけど。ゼロってどうやってラクロアンローズ、出してるの?」
「それは世界に存在するマナの力を貰い、魔法で出しているのだ!」
そこで、欠かさずにシュウトにラクロアンローズを差し出す。
「あ!ありがとう!」
それをシュウトは受け取り、じっと見つめる。
ゼロや爆熱丸に逢うまで、まさか別次元の世界があるなんて思ってもいなかった。
でも今のゼロに故郷の事を聞くのは酷だと思った。

「シュウト、どうかしたのか?」
「ううん!何でもな――」
い、という言葉はゼロには聞こえなかった。
突然のように、馬の走る音。
ゼロはしまった!というような顔をして辺りを見回す。
「ゼロー!! 貴様という奴は!!」
「あ!この声って爆熱丸?」
シュウトは声の聞こえる方を見ると、怒りを露わにした爆熱丸が居る。
腰の2本の刀は鞘から抜けており、ゼロも魔方陣から剣と件を取り出す。
「貴様、抜け駆けは許さん!!」
「私がシュウトと何処で何をしていようと関係あるまい!」
そんなバチバチと殺気が飛び散る風息をシュウトは見守るしかなかった。
というより、中に入ったら自分の命が危ない気がする。
「ど、どうしよう……!」
「奴らなど、放っておけばいい」
「え?!でも……そんな……うーん?!」
シュウトは2人の喧嘩の方ばかり見ていたので、隣に誰が居るかなんて気にもとめてなかった。
それが悪かった。
隣には白い鎧を纏うトールギスが居た。
辺りは芝生で白が一層、際立つことこの上ない。
それより何故ここにいるのだろうか?
魔法できたのだろうか?
目的は?
疑問はあふれ出す程出るが、それどころか今は自分の命が危ない。
「と、ととととー……トールギス?!何でここに?!」
ガキンと爆熱丸とゼロの刀と剣がぶつかり、喧嘩は一時、止まり2人はシュウトの方を見る。

「トールギス?!」
「トールギスだと?!」

当のトールギスは爆熱丸とゼロを無視し、シュウトに話しかける。
「シュウトとか言ったな……」
「な、ん……ん……」
強敵を目の前にしてか、舌が上手く回らない。
「トールギス、何故ここにいる!」
「そうだっ!!」
喧嘩していた2人の矛先はトールギスへと向かう。
「何故だと?私がネオトピアこちらに来てはならないのか?」
「来てはならない訳ではないが、敵同士!進軍するわけでもないのに何故、敵に会いに来るというのだ!」
「いや、爆熱丸、奴は危険だ……こちらに来てもらっては困る!!この、バナナめ!!」
かなり容赦ない言葉。
それを怒りを殺しながら、トールギスは冷静に言う。
「――まぁ、良い。貴様らに用事があるわけでもないのでな。迎えに来た、我と一緒に来てもらおう……シュウトよ」

 

「え?」
「は?」
「な!」

 

「…………」
「…………」
「…………は?! ま、まさか貴様もシュウトを?!」
ぼーっとしていた爆熱丸は突然、ぎょっとしたままでトールギスを見る。
一方、真っ青な顔をしながら、ゼロはぶつぶつとつぶやく。

「何故だ……何故なんだ?!奴までシュウトを狙う??あの時、ラクロアに行ったのがまずかったか!何て事だ!ただでさえ敵が多くて困っているというのに……シュウトは私のものなのに!!」

「お前のじゃない!!」

爆熱丸がつっこんだのは、非常事態でも日ごろの癖が出てきてしまったという事だろう。
「もう一度言う、我と一緒に来てもらう」
今度の言葉はお願いでもなんでもない。

“命令”

「そんな安々とやれるものかっ!」
爆熱丸は先ほどまで恋敵に向けていた刀をトールギスへと向ける。
「…………邪魔だ」
一瞬。
光に包まれてまぶしい。
そう思った次の瞬間には爆熱丸とゼロは離れた芝生の上に倒れる。
「爆熱丸!!ゼロ!」
シュウトは反射的に2人に駆け寄ろうとするが、トールギスに腕をつかまれてる。
「離せ!」
「それは出来んな」
グイっとトールギスの方に引き寄せられると、そっと抱きかかえられる。
同時に、上空にはワープと思しきものが出現した。
その中に入れば簡単にはネオトピアには帰ってこれないだろう。
それだけは避けなければならない。
シュウトは力の限り、逃げようとするが、力でも体格でもかなわない相手。
無理があった。
抱かかええられたまま、トールギスはふわりと上空へ浮き、シュウトをつれたままワープへと入る。
「ちょっと!ゼロ!爆熱丸ーー!!」
その言葉は最後は途中でぷつりと途切れ、ワープは姿を消した。

 

ぎゅっとつぶった瞼をゆっくりとだが、開ける。
すぐに瞳に入ったのは紫色のゆらりゆらりとゆれる炎。
あの広がった芝生じゃない事がわかる。
やはり、再びラクロアへ、この地へ来てしまったのだ。
トールギスはそっと、シュウトを地面に下ろす。
足が床に着いた途端にシュウトはトールギスに訴えた。
「トールギス!!僕をネオトピアに戻してよ!!」
そんな言葉に耳を傾けず、トールギスはずいっと
シュウトの顔の近くに手を伸ばし、その後、その手をトンとシュウトの額に伸ばす。
「な、何?」
やはり、シュウトの言葉には無反応。
シュウトの耳には聞きなれない言葉。
だが、聞いた事の無いものではなかった。
以前にゼロが魔法を使用する時に唱えていた発音に似ている。
そう思った瞬間だった。
自分の頭上に魔方陣が浮き上がったのは。
シュウトに光が降り注ぎ、魔方陣は一瞬にして消える。
「トールギス……何、したの?」
「すぐにわかる……それより、服を脱げ」

コイツは何をいっとるんじゃ!というような発言である。

「なんで?」
「いいから早く脱げ」
1つシュウトは溜め息をついて、しぶしぶ上半身から脱ぎ始める。
先ほどから考えていたのだが、心なしか声が明るいような気がする。
まるで自分の声じゃないようなのだ。
「あれ??」
そんなことを考えている間に服は胸の辺りまで来たが、何故か脱ぎづらい。
それを見かねたトールギスは手で少し服を捲り、その後すぐに手を離す。
そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「成功だ」
「え?」
「もう脱がなくてもいい、体が妙だとは思わないか?」
突然の問いで少し動揺してないといえば嘘だ。
自分の思った事を素直に言ってみる。
「え?……うーん、声が何か明るい感じがする……」
「そうか……なら、自分の手を胸に当ててみろ」
トールギスの言った通り、シュウトは胸に手をあてる。
「??」
いつもより、少し膨らみがあるような気がする。
そう、声も胸も全て気がするなのだ。
「トールギス……あのさ……今、何の魔法使ったの?」
「魔法を使用した人間の性別を逆にする魔法だ」
シュウトは頭を考え込みたい心境だが整理しようと、知識をフルに回転させる。

【魔法を使用した人間の性別を逆にする魔法 】

もし女なら魔法を使用した場合は男になる。
その人が男だったのならばその逆の……。

ハッとして思考をとめる。
まさかとは思う。
「そのまさか、だ……」
トールギスが決定打を打つ。
「……」
シュウトには返す言葉が見つからない。
「人間なのには変わりないだろう?」
「……そういう問題じゃないよ!元には戻れないの?!」
「無理だ」
トールギスの言葉があまりに重過ぎる。
「え!?なら、さっきの魔法、もう1度かけてよ!!」
「同じ人間にあの魔法をかけると、拒否反応を起こし、中性体になる可能性がある」
「そんな!……こんなことのためにラクロアにつれてきたの?!早く僕を元に戻して!ネオトピアに返して!」

 

自分に与えられた部屋の窓からシュウトは先ほどからずっと外を眺めていた。
最初にこの地へ来た時はネオトピアに帰れるのか?
強敵・トールギスをどうするか?
問題が山済みで、景色を見て悲しい気持ちになったのは覚えているが今ほどではない。
今頃、どうしているかわからないゼロの言った言葉を思いだす。
『今はあんな状態だが、とても美しい国なのだ……』
あの時ほど、ゼロの表情が痛々しかった時は無い。
今の国の状況を悲しく思い、そして以前の美しかった頃の国を思い出している瞳。
国を救う事を考えているのはゼロだけではなく、爆熱丸も一緒だ。
ラクロアへ来ても自分のすべきことすればいい。
この姿になったとしても。
そうシュウトは心に想いを宿していた。
「外ばかり見ていて、つまらなくは無いのか?」
いつの間にかそこにいたトールギスはシュウトに視線を落としつつ、言葉をかける。
シュウトは外の景色からから視線を移さず答えた。
「つまらないって……ゼロの言ってたこと、思い出してただけ」
トールギスは何を言っていたのかはあえて聞かなかった。
すでに、何を言ったのかはわかりきっていたからだ。
「なら、こんな風景にしたオレが憎いか?」
その言葉を聞き、やっとシュウトはトールギスの方に視線を移す。
「……絶対に憎くないとは言えないよ。ゼロが一生懸命に頑張ってること、知ってるから……」
「そうか……」
「でも……トールギスはいい人でしょ?こんな身体にしたのも、何かあるからだと思うし…… “罪を憎んで人を憎まず”とも言うしさ」
トールギスは数秒経った後に、シュウトに言った。
「……やはり、面白い奴だな」