ノックを4回して自分の身元を名乗れば、すぐに返事が返ってきた。
残りの部下は別室で待機させている。
思う存分にお互いの腹の探りあいをできるというわけだ。
「失礼します、お呼びでしょうかミロク様」
「待っていたよアヤナミ君」
一息つくと、ミロクは続けて言う。
「今度の卒業生を君のベクライターとして、ブラックホークに入れさせようと思ってね」
言い切った後に、とても優秀な子だ、とも付け加えて。
「お言葉ですがミロク様。――我が参謀部直属部隊、ブラックホークの存在意義はご存知のはずでは?」
そう、ブラックホークは皇帝が気まぐれに飼っているだけのヴァルスファイルの精鋭部隊なのだ。
「いくらミロク様の教え子とはいえ、ヴァルスが扱えないようでは話になりません」
「確かにヴァルスが使えなくては配属は厳しいだろう。だがあの子はそれ以上の“モノ”を持っている」
尻尾を出さない老人にイラつく。
「用件はそれだけでしたら、公務がありますので……」
「アヤナミ君、あの子はラグス王国出身だ。これだけ言えば君も解るだろう?」
「…………」
その無言は肯定となる。
時にミロクは、手を明かしていない筈のアヤナミの中を垣間見るように、言葉を紡ぎだす。
それが嫌いなのだ。
千年という時を超え、ようやく、ラファエルの瞳を解放することが出来たというのに!
何故、自分の手筈通りにいかないのだ。
「解ってもらえて嬉しいよ、アヤナミ君。きっと君なら、――テイトを気にいるだろう」
引き出しからファイルを出されれば、自分のベクライターとなるべき人間の履歴が載っている。
(――翡翠の瞳……)
ミロクの教え子ということもあり戦闘に関しても、腕は全く問題ないのだろう。
そして容姿を取っても、何処かの富豪が好んで奴隷として買いそうな少年だと感じた。
監視目的?
拷問?
事情聴取?
いや、全て違う。
そう、この少年とは一度ラグス王国戦争終結後に会い、そして記憶を見ているのだから。
「わかりました、ご好意に感謝します」
「近いうちに卒業して会うことになるだろう。他のブラックホークの皆にもよろしく頼むよ」
「承知いたしました」
* * *
部下を待機させていた部屋へ戻ると、やけにムードが和んでいた。
「~~♪」
ヒュウガが鼻歌を口ずさみながら、飴をカラカラと口に含んでいる。
「妙に機嫌がいいな、ヒュウガ」
「あ。アヤたん、お疲れ様☆いやー、すっごく嬉しいことがあってね!」
視線をアヤナミから、外が見える窓へと向けて紡ぐ。
「早く……」
窓から、陸軍士官学校の校舎が垣間見えた。
「ヒュウガ少佐!!……申し訳ありませんアヤナミ様、ここに来てからこんな調子で」
フォローに回るコナツが横目で、自分の上司を見る眼は哀れんでいるようで……。
「気にするなコナツ、コイツはそういう奴だ。用件は済んだ、帰るぞ」
「はい!」
嬉しそうに返事をするコナツと対照的に、ヒュウガは溜め息をついて、椅子から立ち上がる。
「今度の卒業生から私にベクライターをつかせる。詳細は要塞に帰ってからだ」
わざわざミロクが送り込む新人ベクライターが鍵になることは、アヤナミとミロクだけが知る事実。
このチャンスを逃すものか!
手元の書類に視線だけ送る。
待っていろ、テイト=クライン……。