「綱吉、8日なんだけど……」
「ああ……恭弥さん、オレもその日は仕事なんです。ごめんなさい」
お互いスケジュールを確認したのが1月2日。
綱吉の反応があまりに素っ気無くて、自分がこんなに期待していたことにこのとき気づいた。
まだ街に灯りが点り始めたころ、雲雀はボス専用の執務室に入ると獄寺だけが視界に入る。
仕事は捗っていない様で机の資料の数を見ると残業は決定しているようだ。
「ヒバリか、報告書ならデスクに置いといてくれ」
「――それよりあの子は?今日仕事だって聞いてたんだけど?」
拍子抜けしたような表情をした獄寺は
「10代目なら骸と一緒に飲み行ったぜ……?」
近所迷惑どころか騒音被害で訴えれそうな扉を閉める音。
(ったく、中学の頃から何もかわってねーな)
軽くウィスキーを飲みながら美味しそうに料理を頬張りながら――黒いスーツの男に目をやる綱吉。
「……なんで、お前がここに居るんだ!!」
「ダメツナが。オレが居ると問題でもあるのか?」
クハハ、と笑う相手は
「僕はアルコバレーノが居ても気にも留めませんがね!」
と言うと、以前なら目が飛び出るような桁のワインを美味しそうに飲み干した。
「ところで綱吉くん、君からお誘いなんて珍しいですね。“こんな日”に」
「別に……“今日”オレが誰を誘おうが構わないだろ。ここんところ、出かける暇もなかったし」
心の中で暇がない事実に同意したのはリボーンだった。
獄寺隼人以外の守護者は殆どボンゴレ本部に停滞することはない。
全てS級以上の任務、長期出張で出払っているからだ。
それをカバーするように綱吉と獄寺が必死に対処するのだが、とにかく人手が足りない。
特に難易度が高いものはペアを組む事もあるが、主に雲雀恭弥と六道骸が担当していた。
「クフフ……。ボスは執務室に篭りっきりですからね」
「なら話は早い。今日はパーッと飲むぞ――骸の奢りでな」
「ええ、良いですとも!綱吉くんと共に一夜を過ごせるなら安いものです」
(全くこいつらは人と金を天秤に掛けるな!!)
正直なところ、綱吉も今日この面子で飲むとは思っていなかった。
仕事がひと段落したところに骸が報告書を持って来たので綱吉から飲みに誘い、車に乗り込んでから後部座席を見るとリボーンが居座っていた。
出会った頃は将来どうなるかと思ったが今では案外悪くないと思う。
この面子の特徴は下手に他人の心に踏み込んでないこと。
獄寺や山本の普段の優しさは嬉しく感じる内心、複雑なのは確かだ。
水を飲み干してリボーンが綱吉を見る。
「そういやツナ、お前、ヒバリとは“相変わらず”なのか?」
「……“相変わらず”だよ」
「いつまでも熱いなんて言っていたのは何処のどちらさんでしょうね?」
そう、そう言っていたのは雲雀恭弥だ。
「そう思ってたのは僕だけってことみたいだね」
「うわ?!」
ズカズカと人様のテーブルに入ってきたのは紛れもない自分の伴侶。
「邪魔するよ」
「クフフフフ……おやおや……」
「ちゃおッス、ヒバリ」
一気に酔いが冷めた。ことは今まで何度かあったが青ざめるほどはなかったかもしれない。
それどころか逆に気持ち悪くなってきたかもしれない。
「それより、どういうこと綱吉」
「……」
「……まぁ、いいじゃねぇか!今日ぐらい4人で飲んでも、な?」
助け舟を出したのはリボーンでその発言に雲雀は武器を構えることはない。
少しため息をつくと「いいよ」と軽く返事を返す。
綱吉が何を考えているのか知りたいと思った末、の言葉は気に食わなかったらしい。
「先帰る。骸今日奢っといて」
咄嗟にスーツ持って席を立つ綱吉をリボーンと骸は無表情のまま、雲雀はイラついたまま見送る。
遠ざかる彼特有の足音が消えた後に骸が呟く。
「あのお姫様も扱いが難しいですね」
雲雀の目の前にワイングラスが出されたのと同時に骸が言う。
「雲雀くん、綱吉くんとはあまり睦まじいようではないですねぇ」
「骸、あんまり煽るな」
リボーンは再び高級料理に美味しそうに頬張り始める。
「君は求められる綱吉くんの気持ちを考えた事がありますか?」
いつもなら適当に流せるものが脳内に入り込んで気持ち悪い。
あの子の言葉を探し当てようと目まぐるしく回転する。
【恭弥さん、オレ――】
あまりの口寂しさに、目の前に出されたワインを飲んでから気づく。
(馬鹿だな……綱吉はあんなに信号を出してたのにね)