「ヒバリさん、いつまでこうしてるつもりなんですか……?」
「目的地まで着くまで。急いで君が転んでも嫌だからね」
(うっ!)
図星過ぎることを突かれて何もツナは言い返せない。
でもその気遣いが嬉しくて、ツナは雲雀の首と肩の間に顔を埋めた。
「ほら、着いたよ」
そっと雲雀はツナを地面へと降ろす。
「神社?」
ここは、今年皆で夏祭りに来た神社だった。
あの時は雲雀も何故か神社へ来て驚いたな、ツナは懐かしく感じた。
雲雀がツナの手を掴もうとすると「あっ……」ツナは何故か手を引っ込める。
最初は疑問に思った雲雀だが、その後の行動を見て納得した。
ツナは“27”と描かれたトレードマークの手袋を外してから、自分から雲雀の手を握る。
「リボーンから、いつ何があってもいいようにって持ち歩くのが癖になっちゃって……」
頬につめたい空気が当たっていたのか、少し赤く染まっていた。
「それに、手を繋ぐなら何も壁がない方がいいです」
ツナの一言があまりにも嬉しくて、雲雀は今すぐにでも抱きしめたくなった。
「そうだね……」
そうポツリと返してから、神社の拝殿へ向かった。
「そういえばヒバリさん、なんで年明けしてないのにお参りに?」
「二年参りってしらない?」
ツナにとっては初めて聞く単語である。
「なんですか、それ……?」
「初詣の一種だけど、大晦日の深夜0時の境にまたがって参拝することから二年参り」
「そうなんだ……」
(あ、お賽銭がない!!)
ごめんなさいごめんなさい、と脳内で謝りながらツナはそっと手を合わせて願う。
願うことはただ1つ。
”仲間の皆と そしてヒバリさんと ずっと一緒に居られますように”
「綱吉、いつまでそうしてるの?」
「へっ?!」
隣にいた雲雀はあっという間に、済ませたようだった。
雲雀は携帯電話を取り出して、時間を確認する。
「綱吉、あけましておめでとう」
微笑んだ顔がの方が言われた言葉より、ドキリとしてしまう。
「あ、ああ、あけましておめでとうございます、ヒバリさんっ」
その直後、不意に雲雀に抱きしめられてもツナはあまり驚かなかった。
もじかしたら、こうされることを望んでいたのかもしれない。
「ヒバリさん?」
「今年も、ずっとよろしくね。綱吉……」
それはきっと終業式の日からの2度目の告白。
「はい、ヒバリさんっ……」
お互いの唇が冷え切った中で2人は口付けを交わした。
***
「ゴホ、ゴホッ……」
ツナは弱っていた。
頭はズキズキする痛さに身体のだるさ、吐き気。
部屋にいた住人達は暑いという程に暑いのに、ツナにしてみれば肌寒い。
誰もが“風邪”という判断を下すだろう。
今日は1月4日。
朝起きたら何か違和感があったので、体温計で熱を測れば38.9の数字。
学校から出された宿題はリボーンの言いつけで早めに
片付けたものの、まだリボーンから出された今日の分の課題が残っている。
“ダメツナだから、風邪ひいても課題出さないとボスにはなれねぇからな”
せめて風邪の日位休ませてくれ!!!
それがツナの本心だった。
ランボ達は風邪が感染るといけないという理由で、部屋への出入りは禁止された。
普段なら煩くなくて良いと思ったが、今は逆に心細いと感じてしまう。
頭がポーッとしてきた時にコンコンとノックの音がする。
「何、母さん……って、え?!ヒバリさん!?」
力を振り絞って出した言葉がそれ。
まさか雲雀が自分の家、ましてや部屋に来るとは思っていなかった。
「あの赤ん坊に聞いたよ、風邪ひいたんだって?」
(リボーン……余計な事を)
意外にも雲雀は心配性で、元気な所を見せていて心配などかけたくなかた。
「あはは……馬鹿は風邪ひかないっていいますけど、ひいちゃいました」
少し苦笑いしながら、ツナは雲雀の顔を見ながら言った。
雲雀はツナのおでこに手を当てると、熱いと感じることから「やはり風邪か」と思う。
息は少し荒く、呼吸のし辛さが伺える。
「大丈夫、ではなさそうだね。何度なの?」
「えっと、今朝は38.9でした」
その後は会話が続かない。
ツナにしてみれば、声は少し枯れているので話題を振るのも不自然だろう。
雲雀は、病人に会話を求めて回復が遅れさせることなどしたくはない。
でも何も出来ない自分が悔しいが、病気や怪我は当の本人の回復を待つしかない。
「ヒバリさん、寝るまで……手握っててもらえますか?」
「わかった、いいよ」
ツナは左手を差し出す。
ぎゅぅ、と握ると普段より僅かに熱いのと違和感がある。
それは終業式の日に薬指にはめられた指輪。
「……外してたのかと思った」
「……?あ、指輪?」
思わず口に出してた雲雀は嬉しくて、手をきつく握る。
少し痛いと思ってもツナは何も言わなかった。
「外すわけないじゃないですか。大事な物ですから」
風邪でも、ツナの笑顔は何も変わってなかった。
それから数分後には寝息を立ててるツナを、雲雀はそっと頭を撫でた。
***
天気良し。
寝起き良し。
でも謎なメール有り。
“午前10時に迎えに行く”
毎朝はおはようのメールをお互い送るのだが、今日は素っ気ないメールが1通。
起きたのが9時11分で良かったと、ツナは胸を撫で下ろした。
ご飯を食べたら、急いで洗面所へ行って顔と歯磨きをして服を着替える。
そんなことしていたら、あっという間に10時だ。
10時手前でチャイムが鳴る。
「はーい」
玄関のドアを開けると、愛する人がいた。
後ろにはバイクが止まっている。
「おはよう綱吉、迎えにきたよ」
「おはようございます、ヒバリさん」
学校で交わす相変わらずの会話。
バイクに乗ると、雲雀はツナにヘルメットを渡たす。
「ほら、後ろ乗って?」
「はい」
(そういえばヒバリさん、用事の内容言ってない……)
少し不安になったツナだったが、バイクに乗せられるがまま連れて行かれる。
着いた先は明らかにツナにとっては不釣合いな店だった。
「ヒバリさん、どういうことですかぁああっ?!」
服を店の店員に無理やり脱がされながら、ツナは雲雀に叫んでいた。
「ちょっと!止めてくださいよ!!!」
試着室で叫び声が聞こえたが、数分してから静かになる。
「…………はぁ……」
疲れた顔をして出てきたツナに対して「綱吉、ドレスどれにする?」と雲雀は平然と答えた。
「もしかして、今日のメールってこれのことですか?」
「そうだよ?結婚するんだから、ドレスは必要でしょ?それとも着物がよかった?」
(どっちもどっちだよ………………)
ドレスにしろ着物にしろ、女物を着せられるのは解りきったことだった。
「いえ、ドレスでいいです……」
ツナは顔を上げて辺りを見渡せば壁一面にドレスが並べられていた。
昔はドレスを着た綺麗で素敵なお嫁さんを貰うのが
普通だと思っていたが、自分が着ることになるとは思ってなかった。
手にとって触ってみると、意外にも触り心地は良くて。
色も定番と言える白から何の色まで揃っている。
「何色にする?」
「えっと、白色がいいかな……?」
驚いたが偶然に口に出してしまった言葉がそれ。
どうもツナの中ではウェディングドレスは白というイメージが強いらしい。
雲雀が白色のドレスを見ている間、ツナは見本に飾られているドレスを見てぼんやりする。
綺麗だと純粋に思うが、自分が着ていると想像したのは不覚だった。
何着か出してきたドレスを見て、ツナは1つのドレスに眼を奪われた。
「ヒバリさん、これっ……これがいいです!」
思わず本気で言ってしまったが、雲雀はそっと頭を撫でながら微笑んだ。
「綱吉は何を着ても似合うよ……じゃ、これお願いね」
恥ずかしいけれど、ちょっと着てもいいと思った。