にっこり微笑みながら、家庭教師から生徒への精一杯の愛情を込めて名前を呼ぶ。
「なぁ、恭弥?」
呼ばれた本人は気安く下の名前と言わんばかりに不機嫌なまま。
現在午後2時、午前からほぼ張り付かれてお互いに限界だった。
ディーノにしてみれば、リング争奪戦よりもずっと雲雀を逃すわけにはいかないのだ。
自分の家庭教師であるリボーンにも電話してみたが
「そんぐらいお前が何とかしろ、リング争奪戦の時も家庭教師したんだろ?」
と、カツを入れられ、相手が電話を切った音が耳に鳴り響いただけ。
紅茶を嗜んで余裕があるのは雲雀だけ、歓迎のお茶など1つもない。
あーでもないこーでもないと、頭を捻っている時にノックとドアの開く音がした。
「こんにちは。……ディーノさんを困らせちゃ駄目じゃないですか、ヒバリさん?」
優しいあの子の声、でも少し低音な気がする。
心が驚いて無意識のままに視線がそちらに向く。
入ってきた人物は可愛らしい小動物の印象はどこにもなく、大人びていた。
ずっと身長は高くて、スーツを着こなす姿は到底結びつかない。
「お前……ツナか?!」
それはディーノも一緒のようで、呆気に取られた表情で隣に立つ沢田綱吉をまじまじと見る。
「ディーノさん、お久しぶりです」
「……でかくなるもんだな。それより、いろいろ大変だな」
同一人物と認知出来たようで肩き、苦笑いする沢田綱吉の姿を見ると雲雀はイライラする。
「それよりヒバリさん、少し屋上で話しませんか?」
「……いいよ」
不敵に笑う雲雀はこの沢田綱吉に興味を持ったのは確かだった。
ディーノとこのまま上手く流れてくれれば、そう思う反面内心良い気分ではなかった。
屋上は日中でも肌寒い空気が吹く。
(こんな形で並盛中に戻ってくるなんてなぁ……)
少し離れた場所でディーノたちが不安そうに見ているのが解って、軽く笑う。
喉まで出かかっていた溜め息を飲み込んで綱吉は雲雀を見た。
「ヒバリさん、ディーノさんから聞いてますよね?次の戦闘の為に話を聞いてほしいって」
「興味ないね。そうだね……今興味があるモノとすれば君と、君に似たあの子かな」
予想通りの反応で嬉しかった綱吉は、笑いをぐっと堪える。
ここからどう上手くもっていくかを綱吉はこの10年間で学んだ。
「じゃあオレに似たその子が今何処にいるか知ってますか?」
「ワオ、君は知ってるのかい?」
綱吉は核心していた、上手くいったと。
並盛町と自分の知っている沢田綱吉のことになると、彼は意外に単純のようで話に乗り易い。
ならばこれを逆手に取る方法しかない。
雲雀からみれば似た、こちらからすれば同一人物が現れれば尚更だろう。
「その子なら今は10年後の並盛町にいますよ」
彼に、あの子を追いかけていく覚悟を見せて欲しかった。
憎まれ役を買って出たのは紛れもない自分なのだから。