01 禁じられた過去

ぼふん!
大きな音が鳴るとそこには現れる筈の姿はない。
それを確認して男は何事も無かったかのように歩き出す。
身長はさほど高くない、だが大人に似た色気を放ちそれとは別に近寄りがたい何かがある。
「次はダメツナの番か、」
風に言葉は掻き消され、帽子を深く被った。

(明らかに場違いな格好なんだけど……)
黒いスーツの2人組が並盛町の団地を歩けば奥様方は顔を染めて振り返る。
それは裏社会が盛大に開催するパーティーで慣れた。

自分が飛ばされた直後。
すぐに獄寺隼人が飛ばされたことで体制を立てるのが、少しは早まるだろう。
煙が晴れて目が合えば相手の瞳は現状把握を必死に行うもので。
「久しぶり」
少し俯き加減で切なそうに綱吉が微笑みながら言う。
獄寺は恐る恐る手を取り、その場に蹲って声を殺して泣いていた。
「10代目……!!ご無事でよかった」
抱きしめることも返答することも出来ず、温もりのある獄寺の手を握り握す。
そのことを思い出すと、誰かに胸を抉られた気分だった。

「10代目、リボーンさんとはどのように合流する予定なんスか?」
「実はそういうのは一切決めてないんだ、きっと向こうが見つけてくれるよ」
そう、見つけてくれないと困るのだ。
綱吉は棺の中にいた関係で財布自体を持っていない。
獄寺の財布も確認したが日本通貨がいくらかあって、少しは生活出来るだろう。
早く見つけてもらわなければ生命危機に発展する。
「だからお前はダメツナなんだ」
聞きなれた声で振り返れば、探し人。
非73線を浴び身体が朽ちて死ぬ以前、そのままの姿だ。
「リボーンさん!」
「隼人、お前も来たか」
お互いに名前を呼んで嬉しそうに確かめ合う2人。
綱吉だけは無表情のまま、内心複雑だった。
葬儀は自分も参列し、誰もが死を悔やんだ光景を思い出すと吐き気がする。
「アジトとブツの確保も終わってるぞ、明日には本格的に動けるようになる」
「助かるよリボーン」
「いつも以上に働かされたから給料でも上げてもらうか……」
3人で10年前のように歩く。
「アジトに着いたら紅茶入れますね」
「ありがとう、隼人」
「隼人がついでに夕飯も作ってくれるんだな?」
瞼を閉じて思い出せば、間食の菓子を進める紅茶。
手作りでも高級料理に引けを取らない右腕の晩餐が浮かぶ。
暖かくて、眩暈がしそうだ。

アジトに到着して温かい紅茶を口に運ぶ。
腕は落ちていないようで、鼻をくすぶる香りだけで本部の日常を思い出す。
そんな記憶を消したくて、綱吉は並盛中の方角を見た。