あのままじゃいられない…

[su_icon icon="icon: info" background="#626e92" color="#f1f1f1" size="20" shape_size="6" margin="5px 10px 5px 0px" target="self"][/su_icon]「このままじゃいられない」続き

彼がThe Worldにログインしなくなってから調べた限りでは学校はちゃんと通っているし、公共機関には三崎亮の履歴が残っていた。
携帯電話の番号やアドレスも安易に入手出来たが連絡はしなかった。

いつ戻ってくるかわからない想い人も待ち続けて、ぼんやりフレンドリストを眺める日々が続く。
そんなある日、情報をもたらしたのは旧友の八咫だった。

【ハセヲが今日The Worldにログインする可能性、100%】

いつも焦りもしない自分が、急いで確認すると表示がオンラインになっていて――ショートメールを送った。

「欅……」
「ハセヲさん、おかえりなさい♪」
「あぁ、ただいま」
「でも急にログインしてこなくなって、びっくりしたんですよ♪」
「そっか……悪かったな」
久しぶりに聞くハセヲの声とPC、ゲーム越しとはいえ“自分”の五感で確認すると安心した。
表示されているレベルは12月と同じで、本当にログインしていないらしい。
欅はというと、ハセヲを追い抜いたどころか引き離していた。

12月に受験の話をしてから、真面目に勉強をし始める。
The Worldに没頭するあまり、成績は下がりっぱなしだったので、取り戻すにはゲームなんてしている暇はなかった。
一年遅れて、受験するらしい。

少しずつ、音信不通だった間のことを話すハセヲは――笑っていた。

 

「はい、これどうぞ!」
「ん?……」
トレード申請に映しだされたのは、休止前に一緒に狙っていた双剣だった。
ボタンを押すと、欅が「あの後も出しに行ったんですよ♪」と嬉しそうに言う。

「来年こそ、ご褒美ってやつがもらえるかもなw」
「そうですね!」

「頑張ってくださいね、ハセヲさん」
「ああ!……え?」
ハスキーで落ち着いた、男の声。
ハセヲは驚いて辺りを見回してもネットスラムのゲート付近には2人しかいない。
誰の声か理解できないのに上ずった声で問う。

「今の声……。え、欅……?」
「どうかしましたか?」

最後に会話してから早半年が経っていた。