「ツナさん、もうご飯いいんですか?」
「あぁ……うん、大丈夫」
ハルが綱吉の様子に違和感を感じ、話しかけるも苦笑しながら返すのが精一杯だ。
心配掛けまいと引きつっていても笑ってしまうのは癖だ。
露骨に何かあったという態度を取るよりずっとましだと思う。
「ごめん、今日はちょっと疲れたから先に休むね。本当にゴメン」
部屋に戻って布団に身を投げると装飾のないまっさらな天井に視線が向く。
目を閉じれば夕方の光景が瞼に焼き付いていた。
しばらく抱きしめられた後、雲雀はエレベーターを降りて何事もなかったかのように資料室へ行った。
(なんであんなことしたんだろ……)
10年前の雲雀も時々気遣う態度をみせて優しく抱きしめてくれる。
面影が似ている――それは同じ人物なのだから当然だが。
暫らくすると、修行で疲れていたせいか意識がぷつりと――そこからは何も覚えてない。
意識が浮上したと思いパチリと目を開けると大空が広がっていた。
「あれ?」
体をだるそうに起こすと芝生に横たわっていたようで不思議そうに周りを見回す。
「見つけましたよ、綱吉君」
聞き覚えのある声で恐る恐る振り返るとサラリと流れる長髪が印象的に映る。
「骸?」
六の文字が刻まれたオッドアイは優しく綱吉を捉え、優しく微笑む。
姿は知っている骸より身長は伸びて髪も長い、紛れもなく10年後の姿だ。
「お前、大丈夫なのか!?まだあの場所に……?」
思い出すのは冷たく光さえも届かない闇の中。
霧のリング争奪戦に垣間見た骸がいる場所と仲間を逃がした真実。
リボーンやフゥ太から骸のことは一切聞いていないし、クローム髑髏さえ行方不明だ。
「クフフ……大丈夫ですよ、綱吉君」
そう言いながら近づいてきた骸は綱吉の手を握ると首元のボンゴレリングを見る。
「10年前の、綱吉君なんですね」
「そうだよ。ランボの10年バズーカに撃たれたら入れ替わったら帰れなくなっちゃってさ……」
悲しそうに俯く綱吉を見て、次はボンゴレリングを手取れば
「君には今は無きこのボンゴレリングがあります。必ず元の世界に戻れますよ」
10年前では考えられないような優しい言葉で、不思議と衝撃的だった。
穏やかな声、だが顔はどことなくぎこちない笑顔。
一瞬だけエレベーターの雲雀かと錯覚するような表情だった。
どういう顔で励ましのお礼を言っていいか戸惑いながら
「そうかな」
綱吉は少し明るそうな声で言った。
「綱吉君」
「?」
「どうして居なくなったんですか?どうしてですか?」
「え?」
ボンゴレリングから手を離すと骸は綱吉は肩を掴み、今までにない表情を見せる。
先ほどの質問は綱吉に対してではない、10年後の綱吉に対して。
今にも泣き出しそうな顔は動揺してしまうだけで何か言おうにも言葉が出ない。
「わからないよ、十年後のオレが何を考えてたのかは……」
返答を聞くと、1つ大きく呼吸をしたら骸は手を離した。
「骸、落ち着いた?」
「ええ、大分。それより、少し我が儘を言っていいですか?」
「オレにできそうなことなら……」
君にしか出来ないことですよ、とはあえて骸は口にしない。
了承を得たなら理性を壊すことなど容易い。
そっと首筋に顔を近づけると驚いたように綱吉はビクリと身体を震わせる。
「骸?え!?あの待て、待てってば!!」
肌に唇が触れればお互いの体温が伝わり、胸の高鳴りが気持ち悪い程に響く。
それに耐え切れず綱吉はがむしゃらに骸の服を掴む。
「だから、やめ……!!」
抵抗するようにジタバタともがいてみるが悲しいかな、体格差と腕力で押さえつけられる。
(確かにいいっていったけど……これ、絶対違うよ~~!!)
「ありがとうございます、綱吉君。絶対に生きてくださいね」
今さっき唇の触れた場所がやけに熱く感じ、無意識のうちに手で触る。
「骸、お前……」
「クハハハハ……また会いましょう。Arrivederci.」
いつもの笑い声が聞こえた瞬間、目の前は布団が広がっていた。
お題配布元:Collect