監視とはいえ、記憶を辿れば家族と呼べる人間は居なかった。
【お前のギアスは暗殺に向いている】
この言葉を胸に今では超大国になった神聖ブリタニア帝国で暗殺から何から何までこなした。
人間を殺すことなど何も思わなかったし、これで自分の居所が出来るのならばそれでよかった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの上書きされた記憶に存在しない妹のナナリーの変わりに監視になると
任務が決まった時は家族や慕う人がいなかった自分にその役が務まるのか不安にもなった。
本国にいた頃から7年間に亘る日本。
名前と名誉を奪われたエリア11に渡った後の解かる限りの行動も調べ上げた。
だが調べあげたルルーシュとアシュフォード学園に通う姿は全く違っていた。
それは日本人の救世主であるゼロとも違う、ありえない姿。
ズレは生じたが段々とそれにロロも慣れていった。
学校からいつも通り帰ってくるとルルーシュが夕飯を作って待っている。
少しでもナナリーに近づこうとロロは出したくもない感情を必死に作って相手をするのだ。
「ただいま、兄さん」
「ロロ、おかえり」
昔はエプロンをしたルルーシュが料理をするというのに違和感はあった。
意外にも彼は器用で今では家事の全てを担当して、自分に頼むのは殆どない。
「ほら、今日の夕飯は久しぶりに食べたいと言ってたシチューにしたんだ」
「わぁ、兄さん、ありがとう!」
テーブルに綺麗に並べられた食事を前に喜んだ声を出すがそんなもの嘘だ。
「それと、これ……」
少し微笑みながら渡されたのは小さな箱。
突然のことでロロは戸惑いは隠せず脳内で必死に対処法を考える。
「……え?」
「今日はロロの誕生日だろう?どんなものがいいか迷ったんだが……」
そのルルーシュの言葉にハッとして今日がナナリーの誕生日だと思い出す。
「ロロ、誕生日おめでとう」
受け取らないわけにはいかず、震える手でルルーシュから箱を確かに受け取る。
手の平サイズの箱はあまりにも軽くて何が入っているかは想像がつかない。
それは自分が今まで贈り物などされることがなかったからもあるだろう。
「兄さん、これ……本当に僕に……?」
「何言ってるんだ、ロロ。たった2人だけの家族なんだ、ロロが生まれてきて幸せだとずっと思ってる」
それは絶対に自分に向けられる筈のない言葉
プレゼントなんてされたことなかった。
生まれてから今まで、そしてこれからもありえないと思っていた。
いつも冷静で任務をこなすロロにも動揺は生まれる。
「あ……あ、開けてみていい?」
コクリとルルーシュが頷いたのを見てからリボンを解き、箱を開けた。
ハート型のロケット。
明らかに女物だが、それはナナリーの記憶がなくなっても根本にある“何か”が消えていないから。
「これを、僕に?」
「気にいってもらえるか心配だったが……」
「そんな!これ、ずっと……一生大事にするよ!兄さん、ありがとう」
申し訳なさそうな顔だった兄に上手く回らない言葉で必死に感謝の言葉を述べるロロ。
再びそのロケットに視線を戻せば、本来は送られず筈のないものだがそれは確かに自分のもの。
(これが自分のもの)
生きてるうちの心からお礼を言う日が来るとは思ってなかった。