01 Prince and Knight who sdamet Again

エリア11で皇族を次々と殺され、そして自分の主さえも失った自らの意思を貫き“ゼロ”を捕らえた。
功績が認められ1年程前にナイト・オブ・ラウンズの一員であるナイト・オブ・セブンになった枢木スザク。
だがゼロの正体は発表されぬまま季節は過ぎる、それはまるで知る必要がないとされるあの時のように。

スザクが通っている学校で祭りがあるというのでSixthのアーニャと秘密で遊びに来ていた。
遊びというのは名目上のものでスザクの援護が目的である今回の任務。
だが、ジノにはそれ以上の目的があった。

「ジノ、何で学園に来たの?」
「そんなのスザクのあの服を見て、庶民の学校ってのがどんなのか気になるだろ?」
アイスを頬張りながら笑顔でジノは答えた。
アーニャは無駄に勘が鋭い。
核心から遠くも近くもない言葉で相手の感情を読み取ろうとする。
手には冷たいアイスの感覚とぬるい嫌な汗。
「そう、私はあっち見てくる。ジノも何か見つかるといいね」
いつもの携帯電話を持ちながら歩く後姿を見て心の内で呟く。
(やっぱり隠せないか)

ブリタニア人が創設者という学園だけあって生徒も主にブリタニア人。
上流階級の者も通うだけあって品格は漂っていたし、それは賑やかなものだ。
今やナイト・オブ・ラウンズのスザクや名門貴族出身のジノにとってはそれは“庶民”という括りになっているが。

落ちぶれた権力となっているがアッシュフォード家はKMF開発計画で最先端の技術を駆使し、技術者を皇帝にまで嫁がせた名門家。
「閃光のマリアンヌ」――庶民出身が騎士侯にまで上がってきた女性、今回エリア11の新総督の母君でもある。
そんなナナリー・ヴィ・ブリタニアが保護されたのは今から1年程前のスザクがラウンズ入りした頃の出来事。
ブリタニアへ帰還する前にいたのがこのアッシュフォード学園だという。

権力を使えばいくらでも自分の手で書類を探し出すことができる――だがそれでは意味がないのだ。
忍び込んで書類や資料を拝借というのは立場的に危うい。

思考をめぐらせながら歩いていると勢いよく校舎裏で誰かと激突する。
「こちらの不手際で来客の方にご迷惑を……」
スザクと同じ制服に身を包んでいるのを見るとこの学園の生徒。
生徒をみると自分の主となるはずだった皇子も指をすり抜けるような美しい黒髪だった。

切ない思い出は1日たりとも忘れることが出来ない。
戦場に出ても訓練をしても、平凡な1日を過ごしてもふと思うのはその人だった。
それを思い出させてくれただけでこの学園に来た価値はあったと感じた。
「いや、大丈夫だ」
大丈夫、という返答を聞いて生徒は少し表情が緩む。
地面に数個転がるジャガイモを箱に戻すと少し重たそうに持ち上げる。
「それでは楽しんでいってください」
すれ違う瞬間、紫色の瞳が見えた。

(ルルーシュ、殿下……)

覗き込んだ者全てが美しいと褒め称えるアメジストの瞳。
アリアンヌ皇妃譲りの漆黒の髪。
「生きておられた……!」

「よろしく、先輩!」
そうジノがルルーシュの肩に手を乗せると相手は嫌そうに退いた。

中華連邦からエリア11へと戻る時にスザクより話されたアッシュフォード学園への潜入。
これはジノにとっても好機だった。
自分が元第17皇位継承権を持つルルーシュを追っていることを悟られつつあるのはアーニャだけ。
いつまでここに居られるか検討がつかないならば早急に手を打っておきたかった。
「ルルーシュ先輩、会長から少し案内はしてもらったのですが詳しい案内をお願い出来ませんか?」
「え?ああ、いいですよ」
「じゃあ行きましょうか、アーニャはそっちでな~!」
無理やり背中を押す形になっても表向きの立場の関係で気にすることはない。
ロロという偽りの弟だけが心配そうに見つめてくるだけだった。

廊下を歩けば誰もが2人の美貌に振り返る。
動じる様子はなく、ただ普通に歩くだけ。
「ラウンズの方々がこの学園に来るなんて思ってませんでしたよ、どこから行きましょうか?」
「ああ、出来れば人の少ない所からお願いしたい」
「わかりました」

少し考えた後に連れて行かれたのは校舎の屋上だった。
辺りの景色が見下ろせるだけではなく、一休みできるような小さな庭園になっている。
「ここが屋上です。結構オレも休む時は来たりするんですよ、意外に綺麗でしょう?」
(綺麗なのは貴方のアメジストひとみでしょう)
太陽の光が瞳に差し込むとその輝かしさにいつかの出会いを昨日のことのように思い出させる。
瞳も声も、ジノにとっては全てが狂気だった。
今まで叶わなかったがいつでも隣にいて使え守るのは自分であり、その感情を無理やり押し付けたい。
貴方はただこの腕に護られていればいいのだ――と。

「確かに綺麗ですね。先輩は閃光のマリアンヌ様をご存知ですか?」
一瞬ルルーシュが驚いたような顔をしたがすぐに元の穏やかな表情へ戻る。
「アッシュフォード家で働きその功績が称えられて皇帝陛下に嫁がれた女性ですよね?」
続けて「学園の歴史も知っているとは流石で」と言われたが皇妃の存在を知っていることが聞ければジノは満足だった。
「貴方はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様ではないのですか?」
先ほどは驚いた顔を見せたが、次は呆気に取られた顔をしたと思ったら軽く笑い出す。
作り物でもブリタニアのアリエス宮では見られなかった一つ一つのルルーシュの新たな表情。
「あははは!!……それ新手の冗談ですか?スザクも変な冗談を言うし。ラウンズの方々はゼロが現れても退屈してるとみえる」
「本気で言っておられるのですか?!」
それは皮肉を言われたことではなく、何故自分の身分を隠すのかというものへの問い。
ジノは地面に片膝をついて跪くと続ける。
「幼少の頃にルルーシュ様の騎士候補としてお会いしたことのあるジノ・ヴァインベルグです、お忘れですか?」
「ちょっと……誰かに見られたら誤解されますよ!?」
そう急いで発言したルルーシュだが、頭は問題の連続ばかりで混乱していた。
全てはあの男が仕組んだことだと思うと憎悪から殺意が芽生える。

記憶を辿ればあったことがあるかもしれない。
「……アリエス宮で……」
しまったとルルーシュは口を手で覆うとジノは潤んだ青い瞳で、体に穴でも開きそうな程に見つめる。
数秒後に振り絞ってやっと出た言葉。

「やはりルルーシュ様……生きておられましたか……」

ぼんやり授業中から窓の外を眺めれば嬉しそうに授業を楽しむジノの姿がある。
スザクに情報が漏れると考えればギアスを使うのが妥当な策だが幼少の馴染みで抵抗があった。

確かにルルーシュとジノは、母が存命のころ逢っていた。
アリエス宮で将来の騎士候補と紹介されてから、皇族以外での初めて友達として度々顔を合わせている。
今思えば当時と変わらぬ金髪碧眼だったが、幼さが消え去ったことで印象が全く変わっていた。
(何故ラウンズなどに……)
ラウンズに入るほどの運動技術・KMF操縦技術は一流で、名門貴族出身となれば政界に問わず社会情勢の知識にも長けている。
ジノのことだから手に入ったほんの少しの情報で推測すれば黒幕が誰かというのは見えてくるはず。
ルルーシュは解らなかった、何故自分たちを裏切った父親に忠誠を誓うのかを。

昼食の時間になると、軍の仕事を終えた1番の敵が登校してきた。
「おはようございます」
1年前と変わらない優しい笑みで挨拶をしてもルルーシュとロロは無表情のままだった。
あの顔を見るだけで記憶に残る言葉の一つ一つが反応する……“アイツは裏切った”と。
それでもナナリーの傍に居てくれることは感謝している。
この先、何があろうとも傍にいて守ってくれるだろう。

「よっ!スザク!」
リヴァルが声を返すと嬉しそうにジノがスザクに駆け寄って抱きつく。
「お~、スザク遅かったな!」
「いろいろ報告書が溜まっててね」
会話をする二人に向けて隣から嫌な威圧感を感じたルルーシュはそっとロロの手を握る。
「兄さん……」
一瞬目を見開いて大きく跳ねたロロだったが、すぐに手を握り返した。

「会長、オレとロロは先生に呼ばれてるんで先に失礼します」
「はは~ん、最近ハメ外しすぎてたせいじゃない?」
「嫌ですね会長、そんなにしてませんよ」
ロロの手を握ったまま荷物を持ってその場を離れる。
スザクから態度、行動、表情の全てを舐め取られるような監視の視線はあえて知らない振りをする。
暗殺を生活にあててきたロロならこの視線に気づかない筈がない、だからこそ無意識にあの殺気を放っていたのだろう。

ギアスを使い殺すという最悪の結果を招く前に落ち着かせたのは正解だった。
「ルルーシュ」
その声に咄嗟に足を止めてしまえば用件を聞くしかない。
「どうした、スザク」
心には怒りと恐怖そして少しの罪悪感。
ロロが手を握り返してくれることで気持ちの揺らぎが落ち着くが、自分が何をしてでもスザクを抹殺したくなるのが解る。
「後で話し、いいかな?」
「ああ、わかった」
暫くの間、あの場を去っても恐怖から来る震えは止まらなかった。

新しいイベントの書類をめんどくさそうに生徒会室へ持って向かう。
留年していたが突然卒業を決めて、学校に居れる時ほどルルーシュと同じでハメを外すことは出来なくなる。
昔から身近な人で皇族だと知っている数少ない人物。
きっとここにナナリーがいれば感謝の気持ちで今回のイベントも計画していただろう。
(なら、ナナリーの変わりにオレだけでも……)

目を瞑りたくなるようなオレンジ色の夕焼けがもう1人の影を作り出したのを見て振り返る。
「ルルーシュ、今いいかな?」
机の上にドサリと先ほど持っていた書類を置くと、この空間から抜け出したくてすぐに話題を出す。
「仕事忙しいみたいだな」
「まぁね……。それよりルルーシュ、好きな人っているの?」
「ほわ!?」
奇怪な声まであげてスザクに視線を向けると切なそうな表情でルルーシュを見ている。
何かの罠だと疑いながらスルーする訳にはいかず“今のルルーシュ”なら言いそうな答えを導く。
「ロロだよ。アイツには迷惑と心配を掛けたりしたからな、大事なたった一人の家族だよ」
それを聞いてもスザクは切なそうな表情は崩さない。
「ロロ、ね。何かナイト・オブ・スリーが――ジノが君のことをやたら気に入ったみたいだから。心配になって」
遠まわしに記憶が戻ったことを知ったと言いたいのか、今朝の屋上での出来事を振り返る。
(まさかジノからスザクに情報が渡ったのか!?)
「何が言いたいんだスザク……」
こういう場合、まどろっこしい話しより単刀直入に答えが欲しかった。
そうすればいくらでも対処は出来る。

「ルルーシュ、小さい頃から僕が君のことが好きだったことは気づいてた?」
「ああ、オレ達、友だち――「恋愛としての、だよ」
割り込む形で意外な発言が入ってきて、脳内は再び恐怖で一杯に膨れ上がる。
相手を動揺した瞳で見つめたまま、急いでルルーシュは何千というパターンから必死に先をシュミレーションをする。
「僕は君と離れた後も、この日本……エリア11で幸せに生活出来るように名誉ブリタニア人になって軍に所属した。なのに君はドンドン他の人に好かれていって僕だけのものじゃなくなっていく……一緒にブリタニアへ行こうよ、ルルーシュ」
それは裏切った祖国へ帰る以前にまた皇帝の前に差し出される事実をルルーシュに突きつける。
皇帝のギアスは未だ不明だが、自分のギアスと違い何度も使用出来るタイプだったとしたら厄介だ。
「え?そうだな……。いや、いいよ……オレはまだ学生だから」
「そうやって焦らすんだ……。なら強制的に連れてくまでだよ」
そっとスザクがルルーシュを掴もうと腕を伸ばすとルルーシュは少し後ずさるしか出来ない。

「兄さん?」
「ロ、ロ……」
危険を感じたルルーシュはロロに思わず抱きつくことで、強張っていた精神と体から力が抜けていく。
「スザクさん、ラウンズの方々が探してましたよ?それと兄は体調が悪そうなので連れて帰ります」
相手の返事は聞かずにロロはそっと抱えるようにクラブハウスへ向かった。

クラブハウスに帰ってもルルーシュはロロから中々離れず少し経ってから水を飲むといつもの冷静さが顔に表れる。
ルルーシュは知らないだろうが、ロロはスザクと会話する直前から廊下に待機していつでも駆けつけられるようにしていた。
駆けつけて兄を助けられるようにではなく、正確には駆けつけて枢木スザクを殺せるようにだが。

「兄さん、大丈夫?落ち着いた?」
「大丈夫だ……」
ベットに弱々しく横たわる兄は嫌いではない。
枢木スザクも実の妹であるナナリーも知らない、自分にだけにしか見せない唯一の姿だから。

「あとナイト・オブ・スリーのヴァインベルグ卿が用事があったみたいだけど……」
「そうか」
「呼んで来るね、ヴァインベルグ卿は兄さんの力になってくれるよ」
顔は優しく微笑んだ表情になっていただろうか。
昼食の時も自分の殺気を和らげて止めてくれたのは兄だ。
(枢木スザクなんて居なくなれば)

ルルーシュの寝室にジノを案内してきたと思うとロロはすぐに出て行ってしまう。
「何か用事があるんじゃないのか?」
枕に顔を埋めるようにして震える声でジノに言う。
その姿はあまりに弱々しく、疲労というよりは衰弱に近い。
また“変わらない世界”になるのが嫌で、変化する今に留まる気持ちは痛い程に伝わってくる。
ジノはベットの横に置いてある椅子に座るとただただ悲しそうな瞳でルルーシュを見るだけだった。

「申し訳ありませんでした、スザクがあんな決断をするとは思ってなかったので……」
「お前が謝ることはないだろう?それにこれはオレとアイツの問題だ、気にすることはないさ」
気分が悪いとはいえ訪問者がいるのに横になっているのも嫌でルルーシュは重い身体を起こす。
「ルルーシュ様、お願いです……私を貴方の騎士にさせてください」
「また冗談か?」
相手の声が嘘など言う声色ではないと解っていても言わざるおえない。
先ほどのスザクといい、今朝から問題ばかりが続いたことで驚くことなどなくなった。
「本気です」

マリアンヌ皇妃がテロで亡くなったことは直ぐにジノの所にも届いた。
皇子・皇女は無事と聞いて胸を撫で下ろしたことを覚えている。
だからこそルルーシュを守らなければならないと思っていた。
何度も面会の願いを出したが全て却下された。
皇位継承権を剥奪され、事実上の人質として日本に2人が送られたことを知ったのはテロから4か月以上経ってからだった。

名門貴族出身でも騎士候補の1人というだけで日本に送られた後の足取りは一切不明だった。
それから必死に勉学に励み武術も物にした、いつかルルーシュがブリタニアに戻った時に仕え、守ることが出来ればと。
皇暦2010年08月10日はその想いは空しく、日本に宣戦布告したことで掻き消される。
間もなく本国にもヴィ・ブリタニア兄妹は死亡したと伝わった。

この変わり続ける世界に縋るルルーシュと一度は失い二度と会うことなど叶わないと絶望しきっていたジノ。
先ほどのルルーシュの姿は一度でも主を失ったジノ自身に重なって見えた。
「私がルルーシュ様に命を捧げお守りしたい気持ちは変わっておりません」
「オレにはもう皇族でもないし騎士などいらない、それ以上に今はしなきゃいけないことがある」
ブリタニアを滅ぼすということ、それを行うには騎士としてナイト・オブ・ラウンズは余りに荷物すぎる。
黒の騎士団が交流があるとすれば総帥だからこそ影響が出るのは間違いない。
信用を得るまでに時間がかかる上が、仮面を取って素性を晒せば誰もが納得するだろう。

「考えすぎは良くないですよ?」
「むぅ……煩い……」
誰のせいでこんなに考えてるんだと思いながらルルーシュはジノの額を突く手を退かす。
そんなまだ10代を思わせる行動はジノをルルーシュという深みへと堕とし溺れさせるだけだ。
「それはルルーシュ様がブリタニアに反逆することですか?」
「っ……」
見開いたルルーシュの目は先ほどの悲しさは消え、微笑むジノをとらえる。
「貴方がゼロだということはナイト・オブ・ラウンズでも滅多に触れない機密資料の中に厳重に記録されてましたよ」
「でも、驚かないんだな……」
「最初は驚きましたよ?ですがルルーシュ様の所在を知れたのは好都合でした。ナイト・オブ・ラウンズに入ったのは殿下の足取りを知りたかったからなので」
そこで何かに気づいたようにルルーシュは自分の手を見る。
いつの間にか恐怖の振るえは完全に消え、ロロの前でいられる自然な自分に感覚が似ている。
(年月が経っても、心は覚えてるんだな……)

親友だと思っていたスザクは妹と引き離し皇帝へ売り払った。
学園も偽りの記憶と身分を偽った事実で、本当のことを知っているのは一握り。
黒の騎士団は“ゼロ”を必要としていて“ルルーシュ”を欲しているわけではない。
「ジノ、お前は……。わかった、少し考えさせてくれ」
「本当ですか、殿下!ありがとうございます!」

スザクの一件はその日は落ち着いたものの、翌日は高熱を出して登校出来なかった。
ロロには動向を探らせる為に学園に行ってもらっている。
情など見せないと思っていた偽りの弟は、いつの間にか本当の弟になっていた。

大分熱が引いたと分かるとルルーシュは動きやすい服へ着替えてエプロンをする。
朝はロクな物をロロに用意できなかったので夕飯は少し豪華な物と考えたからだ。
こんな行動を見たらロロはまだ体調が悪いと言って無理やり寝かせそうだが。
「早く作らないとロロが帰ってくるな」
時計を見れば4時半過ぎを刺していた。

野菜を切り終わって包丁を置くとあっという間に1時間経つ。
下ごしらえは済ませたから後はロロが帰ってくるだけでいい。
不意に鳴る呼び鈴の音にルルーシュはエプロンを外してクラブハウスの入り口へ急ぐ。
扉を開けると優しそうに微笑む枢木スザクが居た。
「スザク、どうしたんだ?」
「君が熱を出して登校してないって聞いたから心配で……」
「あぁ、丸一日安んだから大分よくなったよ。心配かけて悪かったな、ありがとう」
熱を出したことを心配するはずがない、敵に売ったこいつが。
なら何故クラブハウスまで来た理由は監視という一言で片付けられる。
「起きてて大丈夫なの?」
「ロロに今朝は食事を作ってないから夜ぐらいと思ってな」
「いいお兄さんだね」
全てを追う監視する視線はないが相変わらず纏わりつくような嫌な感覚は取れない。

「昨日はごめん、急にあんなこと言い出して。でも考えておいて欲しいんだ……ブリタニアへ行くこと」
(まだ言うか……何故オレにここまで執着する)
例えルルーシュが以前のゼロのままだとしてもここまで監視対象で相手に執着することはない。
想定外の事態に弱いことは自分が良くわかっているとはいえ、ここまで予測不能だと対処をシュミレーションしていては間に合わない。
「そうだな。卒業したらの視野には、入れるよ」
「そうしてもらえると嬉しいよ。ねぇ、少し寄ってっていい?」
ルルーシュは良いとも悪いとも答えられない。
弟に食事を作っているだけと伝えた建前、断れば何か疑われる要因を作ることになる。
「――ルルーシュ?」

「先っ輩!」
明るい声はナイト・オブ・スリーのジノ・ヴァインベルグ。
「ジノ……何でここに?」
特に今日は用事があるという連絡は来てないし、ルルーシュは咄嗟に。
「ロロと一緒に夕食を作ると昼間連絡があったんだ……クラブハウスで自炊していると話したら庶民の食生活に興味があるらしくて。だがナイト・オブ・ラウンズに作らせるなんて恐れ多いからな。先に支度していたんだ」
「そうなの、ジノ?」
明らかに疑う視線がルルーシュとジノに向けられる。
(一か八かの賭け、後はジノが上手くやってくれるか)
「そうだよスザク。先輩が熱出したって弟くんから聞いたからね、私は書類もないしこの後もオフだから」
「そっか、僕はまだ昨日の報告書が終わってないから……それじゃ、ルルーシュ」
「ああ、また」
スザクの影が見えなくなると咄嗟に体中に止まっていた息を一気に吐き出す。
混乱した脳内が収まらないままジノをクラブハウスへ招き入れた。

「お体が優れないとお聞きになったので偶然お伺いしたのですが……」
冷たい水を飲むと乾いた喉も何千というシュミレーションをした脳もスッキリする。
「ジノが来ていなかったら、ここに招きいれることになっていただろうな」
食事を作っていたことが問題ではない、自分の寝室にばれないようにとはいえ黒の騎士団や記憶の関するものが置いてある。
それが目に触れたら確実にブリタニアへ戻されていただろう。
「いいかジノ、スザクのことは上手くかわせ」
「Yes,Your Highness」